第22話(他者視点)
不思議な主従に、商人は生命を救われた。
スーツ姿の青年と、ドレス姿の少女だ。
ツムラの読み通り、商人は二人を主従と考えた。
――いやあ、主人の青年は誠に強く、信仰心の篤いお方であった。
ただし、主人はツムラの方であると商人は思ったが。
まぁ、実際間違ってはいない。
愛子とそれを導く妖精は、この世界では愛子の方が主と見られるだろう。
勘違いをしているのはツムラの方だ。
とはいえこれは仕方がない。
転生する前は普通の庶民であったツムラに、自分が主だと思われるほど自己評価は高くなかった。
だが、この世界においてスーツは格の高い礼服なのだ。
かつての愛子の中に、常にスーツを着ていた者がいたからそうなった。
クロもドレス姿の令嬢に見えなくはないが、衣服の高貴さで言えば間違いなくツムラの方が上である。
――おそらく、どこかの貴族のご子息が、信仰心を抑えきれず世直しの旅に出たのだろう。
そして、ツムラにとっては都合のいいことに、ツムラとクロの主従があの姿で旅をしていてもおかしくない土壌がこの世界にあった。
この世界では善行が是とされている。
そうすることで強くなれるからだ。
だから潔癖で信仰心の篤い貴族の中には、善行を積んで信仰を高めようと言うものもいる。
そういう人物が、身分を隠して世直しの旅に出ることは珍しくなかった。
なお、これもスーツの格と同じく、転生者が世直しの旅を行ったという伝承が関係していたりする。
――あれほどの強さに、あれほどのドロップ。彼は、ここに至るまでそれほど多くの魔物を倒してきたのだろう。大変な道程であったはずだ。
まさかレベリングなどという狂信を、ツムラが行ったとは思わない商人である。
ともあれ、アイテムボックスのスキルを持っているからだろうが、身一つで飛び出してきただろう主人に対し、あの従者は非常に聡明であるとも、商人は思った。
――あの従者は、非常に年相応の振る舞いが巧い。アレなら、服装を着替えればあの主従を高貴な血筋だと人々は思うまい。
主人のツムラは、どこか世間知らずなこともある。
他人に見せてはならないスキルの筆頭であるアイテムボックスを、惜しげもなく見せる等。
だが、従者はそうではない。
アレはあまりに自然な子供らしい振る舞いだった。
それでいて、旅に必要なものを自然に提案するのは実に聡明と言わざるを得ない。
まさか素でアレをやっているわけではないだろう。
もし、あの二人が素でやっているのだとしたら、その方がよっぽどの傑物だ。
――はて、どこの血筋のお方なのだろう。あの
商人は詮索するべきではないと思っても、考えてしまう。
そして、ふとある考えに至った。
――そういえば、ああいったスーツとドレスの組み合わせ、他にも可能性があるな。
そう、それは。
――愛子と、妖精?
ドンピシャ、まさしく大正解。
ツムラとクロの正体そのものである。
が、
――ありえないな。
逆に、常識的にありえない可能性だからこそ、否定してしまった。
なにせ、愛子なんて千年に一度現れればいいような、伝説上の存在なのだから。
結果、ツムラ達の正体は闇に消えた。
きっと、二度と商人の中で浮上してくることはないだろう。
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