第20話

 テンプレだろうがなんだろうが、助けに行かない理由はない。

 クエスト達成の経験値が俺を待っている。

 クロを助けたことで、1000点以上の経験値が入るんだ。

 おそらくこれからは、こういう人助けによるクエスト達成が主要な経験値の入手方法になるだろう。

 邪ノシシとか、強さの割に経験値がまず味だからな。


「大丈夫か!?」


 いいながら駆けつけると、そこでは商人っぽい男性が、必死に馬車を動かしながら逃げていた。

 追いかけているのは――


「た、助けてくだされ! に追われているのです!」


 ――ゴブリン。

 ゴブリンだ!

 異世界の定番、スライムと双璧を為す序盤雑魚。

 見て一瞬でゴブリンと解る見た目をしていて、思わず安心する。


 クロには遠くで隠れてもらって、俺一人でゴブリンを対処する。

 もし、別働隊がいてそいつらがクロを狙ったら、人間モードになってこっちに逃げてきて貰う予定だ。


「火よ!」


 掛け声とともに炎の矢を生み出して、ゴブリンを狙う。

 相手は五体もいる。

 多分、ゴブリンの攻撃で俺のDEFを抜けるとは思えないが、人型相手に囲まれるとか冗談じゃない。

 予め、減らせるだけ減らさないと。


 矢はゴブリンに突き刺さった。

 だが、ゴブリンは全滅しなかった。


「あいつら、味方を盾にしやがった!」


 舌打ちしながら、消滅するゴブリンの後ろに隠れたゴブリンに向かって走り出す。

 残ったのは二体。

 うち一体に、一気にスピードを上げて勢いのまま膝を叩き込んだ。

 ゴブリンが消滅し、着地。

 そのままもう一体のゴブリンと向かい合う。


「ありがとうございます、助かりました!」

「いいんだ、他にゴブリンはいないか?」

「こいつらだけです」

「ならいい、このまま全部倒すから、安心してくれ」


 そう言って、ゴブリンと向かい合う。

 向こうは警戒していて、攻撃してこようとはしない。

 俺は、それと向かい合う。


 ……向かい合うこと、しばし。


「あ、あの……大丈夫ですか?」

「あ、安心してくれ。こいつが最後なんだから、心配はいらない」


 べ、別に人型を相手するのが怖いとかじゃねーし!

 ちょっと警戒してるだけだし!


 気を取り直して、こいつを倒そう。

 一瞬考えて、俺は手を前にかざした。


「火よ」


 この距離で火魔法かよー。

 やじを飛ばす脳内自分を蹴っ飛ばし、俺は炎を放つ。

 ゴブリンはそれを避けようとしたが――


「甘い」


 火は、避けたゴブリンに追尾して当たった。

 もちろん火力は十分なので、一撃である。


「ふぅ……これで終わりかな」

「おお……素晴らしい魔法のお手前……助かりましたぞ」

「ああまぁ……そうだな」


 人型相手の接近戦が怖かったとか、口が裂けても言えない。


「ところで……」

「ところで?」

「ああいや、なんでもありません。失礼しました」


 ……あの飛び蹴りがあるなら、魔法はいらなかったんじゃ?

 呑み込んだ言葉が、聞こえてくるようだった。

 とりあえず、要練習だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る