第18話(他者視点)
クロは妖精だ。
妖精とは、女神から人々を助けるという使命を託された人々の隣人である。
だが、直接妖精が人を助けることはない。
一つは、妖精は珍しい存在であり、人目に付くと危険だからだ。
妖精は人々を助けたいが、人々が妖精の助けを必要としているとは限らない。
中には妖精を拐かし、売り物にしようとするものまでいる。
女神の教えがありながら……とは思うが、人は千差万別なのだから、仕方ない。
そしてもう一つ。
こっちの方がより重要な理由だ。
妖精とは総じて人見知りで、恥ずかしがり屋なのである。
クロだってそうだ。
むしろ、クロは典型的な妖精といえる。
緊張しいで、人と交流を持ったことはない。
せいぜいが店先で買い物をしたりする程度だ。
どうやって? それはまだ秘密……
だが、クロには少し変わったところがあった。
クロは愛子に興味があったのである。
妖精の愛子、異なる世界で死した魂が、この世界に流れ着くことにより発生するという存在。
きっと、他とは違う特別な人なのだろうと、クロは思っていた。
そしてそれが真実だったと、クロは妖精の愛子――ツムラとの出会いで悟った。
三体の邪ノシシ、しかも一種は変異している毒持ちをまとめて倒してしまったのである。
邪ノシシは強力な魔物だ。
一人前の冒険者でも、パーティを組まずに倒すことは難しい。
それを一人で、三匹まとめて倒してしまった。
しかも聞けば、彼がクロを治療したのは上級ではなく、初級の治癒魔法である。
たしかに魔法はイメージによって効果を変える。
それでも、使える魔力が少ない初級の治癒魔法で、上級並の効果を発揮するなんて。
当然、戦闘中に使った火魔法にも、全く同じことが言えた。
そんな彼は、レベルを上がるものではなく、上げるものだという。
おかしな人だ。
レベルなんて、20を越えればそうそう簡単に上がるものではない。
日々の善行、魔物との戦い、そういった様々な女神への信仰で、少しずつレベルとは上がっていくものだ。
なのに、彼はレベルを上げるのだという。
女神の存在を知らない、愛子でありながら。
それとも、愛子だからこそだろうか。
きっと、上げることが当然なくらい敬虔な信徒がたくさんいる世界から、彼はやってきたのだろう。
ああ、なんて素晴らしい人なんだろう。
クロが魔物に襲われるのは、クロが齎した不注意だというのに、彼は自分が悪いといって譲らない。
何よりクロを全力で守ってくれた。
だから彼は、善良で素晴らしい、聖人のような人に違いない!
――もちろん、それは勘違いである。
だが、ツムラの行動はこの世界においては、勘違いに映らないほどに献身的な善意であった。
勘違いでありながら、それが是とされるために訂正されることはない。
そんな世界での、ツムラのレベリング生活は、ここから本格的に始まろうとしていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます