第16話
「ふぅ……終わったみたいだな」
「……すごい」
倒れて消滅した邪ノシシとそのドロップを見て一息。
ちなみにこれまで触れてこなかったが、邪ノシシのドロップは皮と肉と牙だ。
ウサギ先生と対して変わらないな。
「……そうだ、妖精さん。君の名前は?」
「ん……クロ」
「クロか、俺はツムラ、よろしく」
だいぶそのままだった。
そして俺の名前はツムラだ。
ステータスがそう言っているからそうなんだろう。
これ、名字なんだけど、名前はどこ行ったんだ?
「しかし妖精か……初めて見たぞ」
「妖精、人前に姿、見せない」
「だろうなぁ」
こんな人気のない森の中に住んでいるんだものな。
俺がそう納得すると、クロは首を横に振る。
「でも」
「でも?」
「わたしは、ツムラ……会いたかった」
会いたかった、とは。
「ツムラ、妖精の
「愛子?」
「この世界の外から来た人、そう呼ぶ」
「解るのか?」
「ん、妖精には解る」
どうやら、俺以外にも転生者、もしくは転移者は過去にいたようだ。
「君が俺を呼び寄せたのか?」
「違う。愛子がこの世界にやってきたから、わたしはそれを察知した。だから見に来た」
話を聞いている限りだと、妖精は俺の転生に何も関わっていないらしい。
妖精の愛子だから、転生者の存在を察知できるわけじゃなく、転生者の存在を察知できるのが妖精だから、「妖精の愛子」と呼ばれるようになったんだな。
「女神様から、愛子を見守るように言われている」
「女神様がいるのか」
女神。
転生に神様はつきものだ。
けど、この口ぶりだと女神も転生には関係ない気がする。
謎は深まるばかりだ。
「でもそれなら、もっと早く様子を見に来ればよかったんじゃないか? 俺がここに来てからもうすぐ二十日だぞ」
「そ、それはその……み、見つからなくって」
「見つからなかった?」
ん……?
「ここ、魔物の出る森。人には危険。すぐに外に出ていると思った」
「……俺が森に籠もってたのが悪かったのか」
つまり、そのせいで森をさまようことになり、ああして邪ノシシに狙われてしまったと。
全部俺が悪いんじゃないか。
「……大変申し訳無い」
「ん……ツムラは悪くない、わたしがツムラを見つけられなかったのが悪い」
「そんなことはない、悪いのは全部俺だ、すまない」
「ううんわたしが……」
しばらく自分が悪い、でお互いに水掛け論をしてしまった。
気を取り直して。
「でも、不思議。ツムラは森で何をしていたの?」
「何って……レベル上げだが」
レベルがあるんだ、上げるのは当然だろ?
そう、クロに呼びかけたのだが。
「……レベル、上げ?」
心底、不思議そうな顔をされてしまった。
「え、いやいや、この世界にはレベルがあるだろ? それを上げたら強くなれるんだ。努力してレベルを上げるのは普通じゃないのか?」
「……レベルやステータスは女神様が齎した恩恵。だから、レベルは上げるものじゃない」
なん……だと?
「レベルは上がるもの。信仰篤く、善良に生きればレベルは上がっていく。ツムラの言っていることは、おかしい」
なん…………だと?
どうやら俺は、この世界の常識に全力で中指を立てていたようだった。
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