第15話

 毒針邪ノシシと素邪ノシシの倒す順番、どっちがいいかは諸説あるかもしれない。

 俺は毒針を利用して素邪ノシシを倒した方が効率がいいと思ったのでこうした。


 それに毒針邪ノシシは毒針以外は普通の邪ノシシと変わらない。

 速度は明らか上がっているが、攻撃手段は毒針と突進だけだろう。


 毒針に関しては、回避する宛があった。

 ここは森である。

 木に隠れながら戦えばいい。

 と、思っていたが。


「近づけないな……」

「向こう、早い。毒針、絶え間ない」


 木に隠れながら毒針をやり過ごして、毒針邪ノシシの様子を見る。

 こちらが動けば、即座に向こうも反応してくるだろう。

 油断なく、俺のいる木を見ていた。


「どうする、どうする……」

「……に、逃げるとか」

「それは一番楽な選択肢だ。まだ取らない」


 正直絶対勝てない……となるほどの絶望感は感じていない。

 あくまで、対応策が思いつかないだけだ。


「木から出たら攻撃される。木から出ないと近づけない……」

「木から、出ずに、攻撃できたら、いいのに」

「……それだ」


 俺は、ちらりと木から顔を出して毒針邪ノシシの位置を確認すると――


「炎よ」


 火魔法を使う。

 これなら、木から顔を出さずに攻撃できる。


 炎の矢を生み出すと、それを毒針邪ノシシに向かって放った。


「当たってない」

「解ってる!」


 当然さけられる、ちらりと覗いただけで、寸分違わず狙いは定まらない。

 向こうは炎の矢に反応して走りだし、毒針を放ちながらこっちに接近してくる。

 毒針は木を盾にして防げるが、これでは膠着状態と何も変わらない。


 なので、炎の矢は囮……いや、誘導だ。


「よし、この位置!」


 最適な位置まで敵を誘導すると、俺は火魔法の使用をやめて、背にしていた木に向かって振り返る。

 そう、木から出ずに攻撃できれば、毒針は怖くない。


 だから、木を切り倒して、その上を駆け抜ける!


 毒針邪ノシシはこちらを見上げている。

 俺たちの間に足場があるせいで、毒針は俺には当たらない。

 木を倒す位置は調整して、一直線に毒針邪ノシシの上を取れるようにした。


「わ、わ、わ、大道芸みたい……」

「捕まってろよ!」


 上を取った俺は、倒れる木に体重を乗せ――木ごと毒針邪ノシシに体当たりした。


「ぶもおおお!」

「まだ、たおれてない」

「解ってるさ!」


 ばらばらになる木の合間を縫って、俺は地面に着地。

 毒針邪ノシシの懐から、敵を見上げる位置に立つ。


「このまま押し切る!」


 拳を構えて、同時に周囲へ火魔法を展開する。

 物理と魔法の同時攻撃。

 一応、ウサギ先生相手に練習していたが、実戦はほぼこれが初めてだ。


「ぶも!!」


 こちらを睨む毒針邪ノシシ。

 毛を逆立たせている。

 毒針で攻撃してくるつもりだ。

 それよりも早く倒す!


「っらあ!」


 とにかく拳と火魔法を叩き込んだ。

 おそらく数秒のうちに、十発以上。

 だが、毒針邪ノシシは倒れない!

 毒針を放ってくる!


「まずい!」


 妖精が叫ぶ。

 俺も思わず息を呑んだ。

 万事休すか!?


 ――と、思われたが。



 放たれた毒針を、俺は弾いた。



 こう、ガン、って感じの効果音とともに、刺さるはずだった毒針が弾かれて地面に突き刺さった。

 ……ああ、これは。

 なんだ。


 俺のDEFが、毒針のATKより高かったんだろう。

 ダメージが入らなければ、毒も何もあったもんじゃない。


「…………」


 なんとも気まずい沈黙が流れる中、俺はイノシシを殴り倒して、戦闘は終わった。

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