第13話

 妖精である。

 手のひらに乗ってしまうくらいのサイズ感。


 容姿は実に異世界のヒロインらしい可愛らしさ。

 全体的に黒ベースのドレスに、腰のあたりまである黒い長髪。

 片目が隠れている。

 引っ込み思案な雰囲気を醸し出す、そんな少女だ。


 ともあれ、怪我をしているなら助けないと。

 異世界に来たのに、人助けを面倒くさがってイベントを逃すとかもったいないからな。


「傷よ、癒えよ」


 魔法にはイメージが大事、無言――無詠唱でも魔法は使えるがやはり言葉というのは重要だ。

 急いでいる時は、特に。


「……一回じゃだめか」


 初級の魔法には限界がある。

 明らかに致命傷な怪我だ、複数回かけていかないと行けないだろう。


 傷口からは絶え間なく血が流れていて、危険な状況だと解る。

 これ、治療しても血液が足りないかもしれない。

 なら治癒魔法のイメージに、血を生成するイメージを乗せる。

 うまくいくかは解らないが、やらないよりはマシだ。


「ぁ……」


 妖精が意識を取り戻した。


「にげ、て……」

「なんでだ?」


 できれば話しかけないでほしい。

 こっちは集中しているんだ。

 でも、そういうわけにも行かない。

 明らかに、妖精は自分がこうなった原因について話そうとしているからな。


「わたし、もう、たすから……ない……」

「いやそっちじゃなく、どうしてこうなったんだ?」

「あ、え……」

「安心しろ、治療はするから。多分なんとかなるだろ」


 異世界に転生して、一人でいるとふいに不安になる時がある。

 そういうときの対処法。

 楽観論。

 今回も大活躍だ。


「え、と……わたし、襲われて」

「魔物に?」

「ん……」


 話をしながら、三回目の治癒魔法を行使する。

 傷はだいぶ癒えてきた。

 血色も少しよくなった。

 けど、まだ妖精は死にそうなくらい弱っている。

 原因は……毒か?

 傷の一部が、あきらかにヤバイ変色の仕方をしていた。

 今度は、解毒のイメージで治癒魔法を使おう。


ジャノシシ、とても危険」

「邪ノシシ? あの大きいイノシシか。あいつそんな名前だったのか……」

「邪ノシシ、知ってる?」

「――倒した」

「え?」


 妖精がきょとんとする。


「数日前のことだ。多分、君が襲われたのとは別の個体だが」

「うそ……」

「嘘じゃない、安心しろ。邪ノシシが戻ってきても、俺がなんとかする」


 いいながらも、妖精の怪我は見た感じどんどんなくなっていった。

 うむ、言い方はアレだが治癒魔法はこれまで使ったことがなかったので、いい練習になった。


「……傷が、治ってる」

「治癒魔法を使ったからな」

「……上級?」

「初級だ」

「え?」


 妖精がきょとんとした。

 俺、なにかやっちゃいました?


 とにかく。

 一旦妖精をつれてここを離れよう。

 別に邪ノシシくらいなんてことはないが、面倒は避けるに限る。

 と、思ったが。


「――まずい」

「何が?」

「邪ノシシが、来る」


 残念ながらそうはいかないようだ。

 まぁ、あからさまにボス戦だったからな。

 しょうがない、やるか。



「――三匹」



 思わず思考が停止してしまった。

 ……どうしてそんな大量の邪ノシシに狙わてるんだよ?

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