第10話

 風呂製作と、シャワー製作は拠点改築の必須項目である。

 なにせ拠点でただ水をだすと、地面を水浸しにしてしまう。

 かといって、外で水浴びをするのもなんか恥ずかしい。

 この間のあれは、服を着たまま水浴びしたのだ。

 スーツもだいぶ汚れてたからな。


 手元にある材料は、スライムのゼリー、一角ウサギの角と皮。

 他の魔物を見つけられればまた違うだろうが、この拠点を改築するためだけにそこまでの労力は割けない。

 流石に、そんな何ヶ月もこの拠点にこもりっきりになるつもりはないからな。

 とりあえず手持ちでなんとかしたいところだ。


 そこで、新たな助っ人を用意した。

 木材くんである。

 考えてもみれば、俺は手刀で木をバリバリすることができる。

 つまり木こりができるのだ。

 だったら木を切ればいいじゃないかってことで、使うことにした。

 クラフトのメイン素材でもあるからね、木材。


 さっそくパワーを込めて木をなぎ倒し、これを加工することにする。

 加工も手作業だ。

 木を破壊しすぎないように、気をつけて削っていく。


 ここで気付いたのだが、俺の腕力は木をへし折れるほどになっていたのに、木を加工する時に力を使いすぎることがなかった。

 なんというか、パワーの出力をこちらのイメージしたとおりに自動で絞ってくれているような。

 パワーを引き出す時に、蛇口を捻って必要なパワーだけを出すイメージだ。


 この世界の身体能力は物理法則を確実に越えている。

 なにかの力で、それは制御されているのかもしれない。

 魔力とか。


 とにかく、拠点にバスルームが完成した。

 木から削りだした板を、皮を裂いて作った紐でくくり、掘っ立て小屋にする。

 ちょっとぐらぐらしていて危ないが、問題ない。

 中は同じようにできた桶がある。

 こっちはかなり気をつけて縛ったのでがっしりだ。


 かくして俺は、しばらくぶりの風呂を堪能した。


「あああああああああ――――」


 って声が出た。

 マジで出た。

 自分でもここまで気持ちよさそうな声を出したのは久しぶりだ。


 そういえば、他にも開発したものがある。

 一つはスライムゼリーを水に溶かしたもの。

 ゼリー、結構粘っこいんだが、これを水に溶かすと泡立ったりしていい感じにならないかなと思ったのだ。


 結果は成功。

 匂いが明らかに洗い物に使えるやつの匂いだった。

 スーツを洗ってみたら、引くほど汚れが出た。

 どんだけ汚れてたんだよ俺……

 後、洗髪や身体を洗うのにも使えた。


 もう一つある。

 ウサギの角だ。

 何匹も倒して、二本しかなかったので使い所に悩んでいたが、これは思いついたらすぐに作ろうと決めた。

 角は硬い金属のような材質である。

 それを腕力に任せてへし折って加工していく。

 すると何ができるか。


 刃物だ。

 具体的な用途は、髭剃り。

 大丈夫なのかと思うがご安心あれ、ヒゲはそれるけど、肌は切れない。

 理由はDEFが高すぎるからだな。


 かくして、洗濯と髭剃りもできて、俺はようやくこの世界に転生した直後の状態に戻ることができたのだった。


 なお、EXPは「50」点だった。

 風呂が「30」点として、洗濯と髭剃りがそれぞれ「10」点だろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る