第21話 お風呂
一週間ぶりに俺とシンシアはグラルドルフに帰ってきた。
強行軍だったからものすごく疲れたけど、帰りの馬車も貸切だったからある程度疲れは取れた。シンシアの膝枕のおかげかな。
「姉さん、疲れてない? ずっと膝枕してたけど」
「もちろんです! むしろクロードの寝顔を見て元気になっちゃいました」
「そ、そう……? ならよかった」
メリアとは一旦アーカニアで別れることになった。今頃、ダンジョンのアイテムを売り払ったお金で孤児たちに施しをしているのだろう。役に立ててよかった。
――そして、俺たちが馬車から降りて、屋敷の前まで戻ってきた時だった。
俺たちの屋敷を物陰から眺めている人物の姿を見つける。
それだけなら別に良かったんだけど……。
……妙に魔力が高い。【魔眼】越しに見るまでもなくそれが分かるほどに。修行の成果だろうか、魔力に対しての感知力が高まっているらしい。
「……姉さん、あれ」
「はい。わたしも気になっていました」
「怪しいよね……。どうする?」
「逃したくないですね。あちらにバレないように様子を見ましょう」
「だね」
俺たちは遠くからその様子を見ることにした。幸い、俺たち二人は魔眼持ちだ。視力には自信がある。
とりあえず【魔眼】で見てみるか。俺は不審者を視界に捉えつつ、瞳に魔力を込める。
どれどれ……?
【名前】ウィルムス
【種族】魔族 女
【年齢】21
【職業】魔王の配下 四天王
【レベル】38
【魔力】26250
【固有スキル】変装
【性癖】露出
……は? 四天王……?
ウィルムスって、確か主人公と最初に戦うことになる中ボスだよな……? 魔王の情報役として、主人公に目をつけて。
なんでそんなヤツがここにいるんだ? しかも、俺たちの屋敷を監視してるみたいだし……。
「……姉さん、アイツどうやら四天王みたいだ」
「魔王の……ですか?」
「ああ。なんでここにいるのかは分からないけど」
シンシアに小声で話しかける。声を荒げることはなかったけど、かなり驚いているようだ。その顔に焦りが見える。
「……目的が分かりませんね」
目をつけられるとしたら主人公であるレネシスが自然な気もするが……。まだ物語が始まっていないことを考えるとそれも少し違和感が残る。
「まさか……クロードを狙いに?」
「……」
確かに、それはありえるかもしれない。
ただ、狙われるならシンシアの方な気がする。俺はまだそこまで強くないし、監視されるほど何かをしてもいないはず。
その点、シンシアは現時点でかなりの強さを持っている。さらに、アルベイン家のその実力は世間にも広く知られている。監視されていてもおかしくはない。
にしても……。あんなバレバレなところで屋敷を見つめていたら「不審者です!」と言っているようなものだよな。
「姉さん、どうする?」
「下手に刺激して騒ぎになるのも避けたいですね。とりあえずクロードが心配なので毎日一緒に寝ることにしましょう」
「……はい?」
とんでもないことを言い出すシンシア。やっぱりアーカニアで一緒のベッドで寝たのは失敗だったか……? 変な成功体験がついてしまった気がする。
「だって、四天王ですよ? 危険ですよね? クロード一人で勝てませんよね?」
「まぁ勝てないけど……」
「なら仕方ありませんよね? あ、お風呂も一緒に入った方がいいですかね?」
「……」
「お風呂が一番危険ですもんね。武器を持って入るわけにはいきませんし、うちの使用人はみな女性ですし、わたしが適任ですよね」
こうなったシンシアにはなにを言っても無駄だろう。俺は反論を諦めウィフムスの方へ目を向ける。彼女は場所も変えずに屋敷を見つめていた。
「とりあえず、裏口から入ろう。見つかったらややこしいことになりそうだ」
「はい。……あ、さっきの話、忘れないでくださいね?」
「はいはい……」
俺たちはウィルムスにバレないように屋敷の裏口へ周る。
……とりあえずなんとかなったけど、ウィルムスの目的が分からないうちは気が抜けない。もしかしたら本当に俺のことを狙っている可能性もあるしな。しばらくシンシアから離れないようにした方がいいのは間違いない。
――でもなぁ……。耐えられるかな……。
◇◇◇
「クロード、入りますね」
その日の夜。
久しぶりの風呂で長旅の疲れを癒していると、バスタオルを巻いたシンシアが風呂に入ってきた。有言実行ですね。
「……そんなに近くに来る必要はないんじゃない?」
「いえ、いつ敵が来るか分かりませんから」
前にも一度お風呂に入ってきたことがあったが、今回はその時よりだいぶ距離が近い。湯気があってもはっきりと顔が見えるくらいだ。
それに、シンシアは湯船に浸かるときにバスタオルを外してしまった。お湯に浸かっているからよく見えないが、立ち上がった途端俺の目の前にシンシアの裸体が現れるだろう。
そんな状況で落ち着いて風呂に入れるわけもなく……。
「クロード、顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だから! それ以上近づかないで!」
なにかと理由をつけて距離を詰めようとしてくるシンシアが気になって仕方ない。お湯にギリギリ浸かったその胸が今にも見えてしまいそうだ。
「背中、流しますよ?」
「……ありがとう。でも大丈夫」
そんなやりとりをしていると出るタイミングを失ってしまった。だんだんと頭がボーッとしてくる。のぼせたかな……。
「うう……」
「クロード!? 大丈夫ですかっ!?」
――そしてついに俺は限界を迎え、シンシアの方に倒れ込んでしまうのだった……。
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