第9話 初の魔物、そして……?



 【フォーグロウ洞穴】。

 外から見るだけだとただの洞窟にしか見えなかったけど、中に入ってみるとそこには広大な空間が広がっていた。


 湿っぽい空気に満ち、石造りの壁には苔が生えている。洞窟というよりは地下通路っぽい。ただ、道幅はかなり広く、閉塞感はあまり感じない。


「おぉー……! これがダンジョンかぁ……」


 初のダンジョン。最初は不安だったけど、入ってみると興奮するな……!


「油断してはいけませんよ、クロード。ここはあまり強い魔物は出てきませんが、油断すると怪我をします」


「う、うん。分かった」


 改めて集中する。少し薄暗い空間の至るところから魔物の気配を感じる。……が、襲ってくる気配はない。


 シンシアが隣にいるからだろうか? 魔物とはいえ、多少は賢いらしい。


 ただ、魔物が襲ってこないままだと困る。せっかく俺の今の実力を試しに来たのに、このままだとあっさりと最終層まで行ってしまいそうだ。


「……姉さん。やっぱり俺一人で……」


「ダメに決まっているでしょう。初心者向けダンジョンとはいえ、どんな魔物がいるか分かりませんし」


「ですよねー……」


 どうにかして姉さんから離れないとずっとこのままだな。


「ガウゥッ!!」

 

 俺が頭を悩ませていると、命知らずの魔物が1匹襲いかかってきた。シルバーウルフだ。群れで行動するなかなか厄介な魔物――。


「――ふっ!」


 ――が一瞬で真っ二つになってしまった。速すぎてなにが起こったか全く分からなかったけど、シンシアが斬り捨てたのだろう。……強すぎない?


「私を狙わずクロードに襲いかかるとは……。まったく、許せませんね」


「はは……。ありがとう姉さん」


「クロード、怪我はありませんか?」


 シンシアが俺の全身をチェックするようにさわさわと撫でる。はい、あなたのおかげで俺は元気です。


 ◇◇◇


 そんな調子で歩いていると、あっさり2層まできてしまった。俺、まだなんもしてないよ?


 2層からは少し強い魔物も現れるはず……。そんな期待を胸に進んでいく。


 しかし、相変わらずシンシアが強すぎる。10匹ほどのシルバーウルフの群れが現れたんだけど、構わずバッサバッサと薙ぎ倒していく。


 そんなシンシアの動きを魔眼で見ながら【模倣】していると――。


「きゃぁぁーーッ!」


 後ろから女の子の悲鳴。

 驚きながら悲鳴が聞こえたほうに目を向ける。

 

「いやあああ! 助けてぇぇ!」


 ――入り口で出会ったフィオナが襲われていた。あれは……リッチか?


 杖を抱えながら逃げ惑っているフィオナ。リッチは魔法耐性が高いから相性が悪いんだろう。


 シンシアはシルバーウルフの群れと戦っていて動けない。


「……っ! ダメです、クロード!」

 

 俺はフィオナを助けるため剣を構え迷わず駆け出す。


 【一ノ型・風凪】を試すいい機会だ。

 

 魔力を足に込め、型の動きを強くイメージする。

 鋭く、無駄のない一閃。シンシアのあの理想的な動き。


 俺はそのイメージをトレースし、フィオナに向かって今にも鎌を振り下ろそうとしているリッチに斬りかかる。


 「――【一ノ型・風凪(改)】!」


 イメージと寸分狂いない動きが初めて出来た。リッチは俺の剣によって両断され、光の粒子となって消えていく。


「ふぅ……。フィオナさん、大丈夫?」


「は、はいぃ……! ありがとうごじゃいましゅ……」


 頭を抱えながら座り込んでいるフィオナさんを助け起こす。その目には涙が浮かんでいた。よっぽど怖かったんだろう。助けられてよかった。


「クロードっ! 無事ですか!?」


「あ、姉さん……ってうわぁ!?」


「クロードぉ……!」


 魔物の群れを倒し尽くした姉さんが俺に飛びつき、強く抱きしめてくる。そしてクンクン。いや、フィオナさんもいるから! 恥ずかしいからやめて!?


「ほぇぇ……。お二人は仲良しなんですねぇ」


「はい。私とクロードはとっても仲良しなんですよ」


「ぐぇぇ……!」


 いつもより抱きしめる力が強い気がするぞ!? 全く身動きが取れない……!


 ――3分ほど抱きしめたら満足したのか、シンシアが解放してくれる。色々危なかった……。


「改めてありがとうございます……。あと、勝手に着いてきてすいませんでしたぁ……」


「姉さんはフィオナさんが着いてきてることに気付いてたの?」


「はい。しかし、まさかリッチが出てくるとは思ってませんでしたので油断していました。フィオナさん、申し訳ありません」


「あ、謝らないでくださいっ! 私が悪いんですから……!」


 俺は全く気付いてなかったけどね! マジで焦ったよ!

 まぁ結果的に【一ノ型・風凪】を試せたから良かったんだけどさ。


「……今日はこれくらいにしておきましょうか。クロードも疲れたでしょう?」


「そうだね……。フィオナさん、一緒に戻ろう」


「はいぃ……」


 フィオナさんはもう戦えるような状態じゃなさそうだし、これ以上進むのはやめておこう。目的も達成できたしな。


 俺たちは来た道を戻る。シンシアの強さを思い知ったのか、帰り道で魔物に襲われることはなかった。


 俺も着実に強くなっている実感を得られた。男でも戦える。この調子で強くなって破滅エンドを必ずぶっ壊してやる……。

 

 ◇◇◇


「シンシアさん、クロードくん。ご迷惑をおかけしましたっ! またどこかでお会いしましょうっ」


 ダンジョンの外まで帰ってきた俺たちはそこで解散することになった。


 手を振りながらフィオナさんが去っていくのを、俺はなんとなく【魔眼】で


 【名前】フィオナ・ミルハート

 【種族】人間 女

 【年齢】15

 【職業】魔法士

 【レベル】1

 【魔力】120

 【固有スキル】風魔法

 【性癖】なし


 ――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る