第10話 レネシス・ミルハート
ミルハート孤児院。
【リバサガ】本編の主人公、
偶然でなければ、フィオナはレネシスと知り合いなんだろう。思わぬ偶然に俺は頭を悩ませる。
「うーん……。レネシスとは出会わないほうがいいのかな……」
本来ならまだ出会っていない俺たちが出会ってしまうのは、ストーリーの進行に影響がありそうだ。
ただ、【リバサガ】ファンの俺としてはレネシスに会ってみたいという気持ちも強い。
――コンコン。
そんなことを考えながら自室のベッドでゴロゴロしていると、部屋の外からノックの音がした。
『クロード様。お客様が見えております』
使用人のメイドさんの声。俺にお客さん……? 一体誰だろう。
詳しく話を聞こうと思い自室の扉を開くと、俺の姿を見た若いメイドさんが目を白黒させながら赤面する。
「く、クロード様……? いけません、そのような格好は……!」
「……? あっ……!」
訓練終わりで汗だくだったからシャツを脱いだままだった。前世の感覚がまだ抜けてないみたいだ。
「ご、ごめん!」
俺は慌てて部屋の扉を閉める。
……ふぅ。こんなの前世ならただの痴女だよなぁ。気をつけないと。
俺は服をきっちりと着込み、改めてメイドさんから話を聞く。
どうやら先日フィオナを助けた件でミルハート孤児院の院長さんがお礼に来てくれたらしい。
……うーん。ここであんまり関係を持つのは怖いけど……。せっかく来てくれたのに出ていかないのもおかしいよな。
まぁ、なるようになるか!
◇◇◇
「初めまして、ミルハート孤児院の院長をしておりますへレーナ・ミルハートです。この度はフィオナがご迷惑をおかけしたみたいで……」
「クロード・アルベインです。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いえいえそんな……。お礼を言わないといけないのはこちらのほうです」
へレーナさんは落ち着いた妙齢の女性だった。優しげな目元とふくよかな体型は、まさに理想の母親のよう。
その隣にはフィオナの姿もあった。彼女もへレーナさんと一緒に頭を下げている。
「ほら、フィオナもお礼を言いなさい」
「あ、ありがとうございましたっ」
そこまで感謝されるとムズムズするな。試し斬りもできたからむしろこっちが感謝したいくらいなんだけど。
「それで……。クロード様に一つお願いがありまして」
「お願い、ですか?」
へレーナさんがこほん、と咳払いをひとつ。
「はい。……差し出がましいお願いなのですが、私どもの孤児院に一度来院して頂きたいのです」
「……慰問、ということですか?」
「はい。孤児院で暮らす子どもたちはみな、一度も男性に会ったことがありませんので……」
うーん。俺としては全然構わないんだけど、シンシアがどう言うかだな。
「分かりました。一度、家の者に確認してみますね」
「……ありがとうございます!」
俺の前向きな言葉を聞いて、へレーナさんとフィオナさんの顔が綻ぶ。俺も子どもは好きだからな。ぜひ孤児院には行ってみたい。
◇◇◇
「――というわけなんだけど、姉さんはどう思う?」
「なるほど……。クロードがいいなら私は止めません。もちろん、私も付いて行きます」
夕食のタイミングでシンシアに事情を話すと、やや複雑そうな表情をしつつも、孤児院に行くことを認めてくれた。
「ありがとう! ……ん。このスープめちゃくちゃ美味しいね」
「最近シェフが張り切ってるみたいですよ。クロードが美味しそうに食べてくれるからって」
「そうなんだ」
ちらり、と厨房をうかがうとニコニコ笑顔のシェフ。20歳前半くらいの美人さんだ。いつもありがとう。
最近は使用人さんたちとの仲もだいぶ良くなってきて、特に身の回りの世話をしてくれているメイドさん、ベルさんとはよく話をするようになった。
半裸で部屋をうろうろしてると怒られるから、最近はかなり気を遣っている。前世とは違って貞操逆転世界だからな。
逆に、女性の使用人が薄着でいたりして、こっちもなかなか大変なのである。
……話が逸れたな。シンシアから孤児院に行く許可も出たし、早めに行くとしよう。
◇◇◇
数日後。
少しの不安を抱えながらミルハート孤児院へと向かう。もちろんシンシアと一緒に。
死ぬほどやりこんだゲームの主人公に出会えるかもしれない期待感もあるけど、あまり目立つのはやめた方がいいかな。
「ここですね。クロード、準備はいいですか?」
「う、うん。大丈夫」
大通りから少し離れたところにミルハート孤児院はあった。喧騒から少し離れた、落ち着いた立地だ。
見た目は、教会と住宅を足して2で割ったような感じ。メインとなる講堂と住居部分が分かれている。古い建物のようだけど、よく手入れされていて綺麗だ。
「ごめんください。アルベインから慰問に参りました、シンシアとクロードです」
「わざわざご足労ありがとうございます。どうぞお入りください」
扉を開けるとへレーナさんが笑顔で出迎えてくれる。
「わぁっ! かっこいいお姉ちゃんとかっこいいお兄ちゃんだ!」「すごいすごい! お姫さまと王子さまみたい!」「お兄ちゃんだ! 初めてみた!」
早速、10人くらいの子どもたちが俺たちに押し寄せる。みんな目をキラキラさせて俺たちを見ている。可愛いなぁ!
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! あたしミリィっていうの!」
「あ、ずるい! わたしはケイトだよっ」
「ちょっと、貴女たち!?」
へレーナさんの制止を振り切って、その中でも年長っぽいミリィちゃんとケイトちゃんの2人が俺の腰に抱きついて自己紹介をしてくれる。
「こんにちは、クロードです。よろしくね、2人とも」
「ねぇねぇ、クロードお兄ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん」
「やったぁ!」
子どもは無邪気で見てて癒されるなぁ。シンシアもニコニコ笑顔で上機嫌そうだ。
「ふんっ、なにが男よ……。まったくみんな男なんかにデレデレして……」
ひとり、離れたところから見ていた女の子がぽつりとそうこぼす。あれは――。
――レネシス・ミルハート……!
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