第2話 【魔眼】とブラコン
――リバーサル・サーガ。
通称【リバサガ】。
俺が転生したこのゲームは、貞操逆転世界を舞台にした特殊な設定のRPG風のギャルゲーだ。元はR18ゲームだったが、一部の特殊性癖の紳士たちから絶大な支持を受け、のちに全年齢版も発売された。ちなみに俺がやりこんでいたのは全年齢版。
【リバサガ】の世界の男女の力関係はかなり特殊で、基本的には男に戦闘能力はない。なぜなら、男は魔力を
逆に、女はみな強い魔力を持っている。さらにその魔力を身体強化に使うから、見た目以上のパワーも持ち合わせている。
そして、男女比も現実とは大きく違う。
設定によると、だいたい1:10くらいとのこと。
だからこの世界では基本的に
そんな特殊な設定のゲームの登場人物に、クロード・アルベインというキャラがいる。
クロードは男にしては珍しい高い魔力と、特殊な【
そう。こいつは作中一の嫌われキャラなのだ。
その理由は色々ある。
甘やかされて育ったせいか、その性格は傲慢で怠惰。せっかく才能があるのに、努力もしない。
そして、女性に対する態度。周りの女性には冷たく当たり、少しでも気に食わないことをした使用人がいれば即クビ。
シンシアとも仲が良いとはいえなかった。シンシアはクロードに優しく接してくれたのだが、クロードは無視するか、悪態をつくかだ。
――さらに物語中盤では悪役に磨きがかかり、その顔の良さを活かして次々に女性をヤリ捨てる。このせいでプレイヤーからの人気もまったくない。
つまり、こいつは男の敵でも女の敵でもあるってこと。
そして、クロードの姉、シンシア。
彼女は物語中盤で仲間になるいわゆる
シンシアはクロードに冷たくあしらわれながらも、持ち前の優しさでずっとクロードの味方をしてくれる。
クロードはそんなシンシアの優しさに甘え、どんどんと堕落していく。
そして、クロードとシンシアの妹であるシエルに関わる
――最終的には男としては高い魔力に目をつけられ、【
前世ならクロードの破滅エンドは大歓迎だったんだけど……。
……残念ながら今は俺がクロードだ。破滅エンドは絶対に回避しないと。まだ死にたくないし。
幸い、俺の頭の中には大量の【リバサガ】知識がある。
ある程度状況を把握し、冷静さを取り戻した俺は、自分の世界に入ってしまっているシンシアに話しかけてみる。
「……姉さん?」
「…………はっ! な、なんですか?」
……やっと自分の世界から目が覚めた。
「……とりあえず、起き上がりたいなーって」
「そ、そうですね、ごめんなさい」
シンシアがゆっくりと立ち上がり、俺の体についた土を払ってくれる。
顔を赤らめて俺の様子をチラチラとうかがっているシンシア。急に俺の態度や口調が変わったから不思議に思っているんだろうか。
少し落ち着いたところで、俺には一つ試してみたいことがあった。
――【魔眼】。
我がアルベイン一家に代々伝わる特殊な力を持った眼だ。もちろんシンシアも持っている。
彼女の魔眼は、相手の動きを見切るという戦闘向きの能力。筋肉の些細な動きや、空気の微妙な振動すらも見切るその能力は彼女を最強たらしめている。
そして俺、クロード・アルベインもまた【魔眼】を持っている。ただ、ゲーム中では設定だけでその能力が実際に使われることはなかった。
なぜなら、それはアルベイン一家が持つ【魔眼】の中でも、
とりあえず、一度目の前のシンシアで試してみようか……。俺は瞳に魔力を込め、シンシアを
【名前】シンシア・アルベイン
【種族】人間 女
【年齢】16
【職業】剣士
【レベル】58
【魔力】58620
【固有スキル】魔眼
【性癖】ブラコン 匂いフェチ
――よし。初めてだけどちゃんと発動した。なにか変な情報も見えてしまったけど。
そう、俺が持つ【魔眼】は、その人が持つ能力や本質を見極める
ゲームでは最弱扱いされ、ほとんど使われることはなかったが……。
――実はこの魔眼には、設定資料集にしか書かれていない
「……どうしたんですか? 急に魔眼で私を視て」
「えっ!? いや、気にしないで!」
「そうですか……? 私のことなんて興味がないと思っていましたけど……」
……やべ。シンシアの魔眼が魔力の動きも少しだけなら見切れることを忘れていた。俺が魔眼で視たのがバレちゃったな。
「いやいや、姉さんには興味しかないよ?」
「は、はい……?」
なんせ俺の一番の推しキャラだ。毎分毎秒見ていたいくらいだ。異世界転生、最高。
「今までごめん、姉さん」
「……急にどうしたんです?」
クロードがこれまで行ってきたシンシアへの冷たい対応。その記憶もある俺はシンシアにこれまでのことを謝罪する。
「これからは、姉さんとは仲良くやっていきたいんだ。……いまさら許してもらえるかは分からないけど、俺は姉さんとずっと一緒にいたい(破滅エンドを回避するために)」
「……! は、はい……! 私も同じ気持ちです……!」
せっかくの姉弟なんだ。シンシアは今までもクロードと仲良くしたかったのだろう。感動に打ち震えながら近づいてくる。その目には涙がうっすらと浮かんでいる。
「クロード……。 これからはいつでもお姉ちゃんに甘えていいんですよ……?」
「――うわっ!?」
今までの距離を埋めるかのようにシンシアが俺の体を抱きしめる。その豊満な胸がむにゅりと形を変えてその柔らかさを俺に伝えてくる。
「ちょ、姉さん……!?」
「クロード……! クロードぉ……っ! クンクン」
ちょ、どさくさに紛れて匂いを嗅いでません!? 訓練終わりで汗臭いだけだよ!? シンシアはめちゃくちゃいい匂いがするけどさ!
……冷たくされていた反動か、ちょっとブラコンすぎるかもしれない。でも、とりあえずシンシアと仲良くなれそうでよかった。
――破滅を回避するには、強さが必要だ。運命を捻じ曲げるような圧倒的な強さが。
最強の姉。そして、
――破滅ルートなんて、余裕でぶっこわせる。
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