第12話 インターンシップ②

 都市東京は7つの地区に分けられている。現在私達『アイリス』は第4地区のパトロールを行っている所だ。もっとドンパチやってるのかと思っていたが、考えてみれば当然でそんな毎日危険な事は起こらない。


「ごめんね2人共。正直聡美さんと一緒に行動したかったでしょ?」


「いえ、そんなこと無いですよ中浜さん」


「そう?でも思ったより平和でしょ、私も入隊した時に思ったけど。ま……それでも大切な事なの、こうしてパトロールするだけでも抑止力になるからね」


「はい、分かってます。気合い入れますわ」


「……あの、杠葉さん」


 私が呼ぶとびくっと反応しそっぽを向く。


「な、なんですの?」


「いや……私何かしたかなって思って」


 杠葉早柚、序列第2位〈セカンド〉……なんだけど何故か避けられてる気がする。何かしたのかと色々考えたのだがそもそも何処かで会った記憶も無い。


「いえ、特に何も」


「そ、そっか。杠葉さん2位なんだよね、すごいよ」


「……」


 あれぇ……?やっぱり何かしてるなこれは。中浜さんも少しだけ困った様に笑っている、申し訳な……




 ブーーーー!!!




 突然大きな音が住宅街に鳴り響く。車のクラクションの音、その方向を向くと小さな子供が転んでいるのが見えた。


「あっ……」


「『電磁砲レールガン』!!!」


 瞬時に移動し子供を抱きしめ、歩道で動きを止める。


「っとと、大丈夫!?怪我ない!?」


「う、うん……ありがとうお姉ちゃん」


 少しだけ擦りむいていたその女の子の肘を治癒する。遠くから母親らしき人物が走ってきた。


「あ、ありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか……!」


「いえ、お気になさらずに」


 ……少しだけ家族の事を思い出した。顔を上げ車の方は大丈夫かと思い振り向くと"防御"の魔法がかけられていた。中浜さん、流石だ。


「お手柄だね、四葉ちゃん」


「ありがとうございます」


 その後親子と別れ、パトロールを再開する。


「ごめんなさい……私だけ動けなくて」


「いやいや!四葉ちゃんが動き出す前に声出てたでしょ。突然の事で体が動かなかっただけだよきっと、気にしない気にしない」


 私も頷く。それに序列2位ともなれば恐らく強力なアルカナを持っているだろう。もしその力で助けようとしても何かしらの被害が出ていたかもしれない。詳しくは分からないがあの一瞬での判断としては間違っていないと思う。


「……はい」


 しかしその後のパトロール中、杠葉さんが口を開くことは無かった。






「この部屋自由に使っていいから。本当は個室にしてあげたいんだけど悪いわね」


 佐藤さんにお風呂や寝泊まりする部屋の場所を案内してもらい早速お風呂へ。おぉ結構広い……というか何故か無言で杠葉さんも居る。まぁせっかくなので普通に話せるくらいには仲良くなりたい、どうしようかな。


「四葉さん」


「ん?どしたの?」


 杠葉さんの方から話しかけられた。


「……今日はすみませんでした。ずっと元気なくて」


「気にしてないよ」


 思ったより嫌われてないのかな、やっぱりよく分からない。


「あの!」


「う、うん?」


「私の事……覚えてますか?」


「やっぱり会ったことある?ごめんね……覚えてない」


「……いいんです!急にこんなこと言われて困らせるかもしれませんけど……四葉さんは私の『憧れ』なんです」


「あ、憧れ?」


 憧れ?……思ってた感じと違うな。


「1年前病院で働いていましたよね?私は四葉さんに助けて頂いたんです『治癒』の力で」


「​───────え、何でそれを……あー!無秩序アナーキーに襲われて運ばれてきた人!」


「はい!覚えていてくれたんですね……嬉しいですわ!」


 家族が全員死んでしまった後、入院していた病院で働いていた時の患者さんだ。血だらけで運ばれてきたのを覚えている。


「私昔からヒーローが好きで、どちらかと言うと男の子が憧れる感じですけど。それでヒーローになるのが夢で『悪を倒す事』が人を助ける事だと思っておりました……でも」


 そう言って真っ直ぐ私の目を見つめる。そんなに綺麗な目で見られると少し恥ずかしい。


「目を覚ました後四葉さんに助けられたと聞いて、入院してる間によく物陰から見てましたの。そこには……奇跡の力で数えられない人が救われて笑っている姿があって感動しました。でももう一つ、四葉さんは自分のマナが枯渇しても周りの人達に止められても……ギリギリまで治癒を止めなかったんです」


「……」


 理由は一応ある、入学する前にある程度自分のマナの量を増やしたかったから。でも正直忘れていたかったのだろう。働いている間は忙しくて何も思い出さずに済むから。


「こんな人がいるんだって感動しました、後で私と同じ歳だと聞いて……自分が恥ずかしくなりました。それから私の目指す目標が決まったんです。あの時の四葉さんみたいに私も困ってる人を傷ついている人を『助けたい』って」


「そう、なんだ。立派な夢だね」


 ……私と違って。


「は、はい!ありがとうございます!明日からは四葉さんの足を引っ張らない様にもっと気合い入れますわ!」


「うん、一緒に頑張ろうね」

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