第13話 インターンシップ③
インターンシップ2日目。杠葉さんと朝の準備をしているとノックの音が聞こえた。
「朝よー起きなさーい……ってもう起きてるのか、子供っぽく無いわね」
「「おはようございます」」
「結構仲良くなったみたいね、良すぎな気もするけど」
「そんな!恐れ多いですわ……」
その割には杠葉さんの距離が近い、昨日の夜も私の布団に入ろうとしたり大変だった。
「今日は午前中私とあんた達で模擬戦、午後は昨日と同じくパトロールね。準備が出来たら下に降りて来て」
そう言って佐藤さんは扉を閉めた。
「試合するんだ」
「驚きましたわ、隊長自ら手合わせして頂けるなんて」
「その割にはあんまり動揺してないね、自信アリって感じ?」
「四葉さんと話すのに比べたら全然余裕ですわ」
「そ、そうなんだ……」
「着いたわよ」
事務所の地下には学園の体育館に似た設備があった。他の支部にも同じものが合って本部にはもっと大きな設備があるらしい。
「一撃でも私に攻撃出来たらあんた達の勝ちでいいわ」
「分かりました。じゃあ……私から」
「何言ってんのよ、二人まとめてかかってきなさい」
準備運動をしながら佐藤さんは顔色一つ変えずにそう言い放つ。
「もう始めてもよろしくて?」
「どうぞ」
その言葉が聞こえた瞬間に佐藤さんに向けて渾身の蹴りを放つ。当然雷を纏った超スピードの蹴りだ。一撃の後、流石に私達の事を甘く見過ぎだとそう言い放つ……予定だった。
「っ……うあっ!」
高速で視界がグルグルと回り気づけば地面に倒れていた。私の上には佐藤さんが乗りながら腕を抑えられていて動けない。
「四葉、あんた今一回死んだわよ」
「……っ!」
「四葉さんから離れてください……っ!」
パチパチという音と共に同時に体が軽くなる。
「ごめん!杠葉さん、助かった!」
「そんなお言葉……もったいないですわ」
「う、うん」
杠葉早柚のアルカナ『氷結』。地面を見ると私が倒れていた所を避ける様に凍っている。ちなみに昨日の夜に教えて貰った。
それにしても佐藤さんは私の蹴りをどうやって避けたんだろう。いくら隊長とはいえあの速さを簡単に避けるなんて出来ないと思うんだけど……。
「───────"
空気が冷たくなったと感じた瞬間、目の前が大きな氷塊で覆われた。その範囲は地下施設の半分を覆う程の大きさ……これが杠葉さんの実力か。恐ろしいアルカナだ。
「こら、よそ見してんじゃないわよ」
「っ!」
まただ……速すぎて何が起きたのか分からず、無力化されてしまう。とにかく杠葉さんの名前を呼ぼうと彼女に目を向けると既に地面に倒されていた。
「何よ、これで終わり?がっかりね」
「ぐっ……!」
「どうするー?私は別にこれで終わってもいいけど」
前髪をクルクルといじりながら佐藤さんはそう言い放つ。
「「もう一度……お願いします(わ)!!!」」
「ふふん、よろしい」
「結局、一度も攻撃が当たらなかったですわ」
「うん……私達は二人がかりなのにね」
午後のパトロールをしながら午前中の反省会、最も何から反省すればいいか分からない程打ちのめされたわけだが。
「こんなんじゃ……ダメだ」
「四葉さん……」
舐めていた訳では無い。だが……こんなにも遠いものかと、ついため息をついてしまう。速く強くならなきゃいけないのに。
「……ちょっとお腹空きません?お昼もあんまり食べていませんでしたし」
「え……?いやそんな事は……」
そう言いかけた所でお腹の音が鳴る。
「とにかく今はいっぱい食べましょう!腹が減っては戦は出来ぬです!私何か買ってきますわ!」
「あ……なら私も……って行っちゃった」
少し遠くのコンビニへと杠葉さんは走っていった。私そんなに落ち込んでる様に見えたのかな、しっかりしなきゃな……。
「……あのー」
「は、はい!」
気づけば目の前に私と同じくらいの背丈の女の子が居た。彼女はスマホを私に見せながら話を続ける。
「ちょっと道を教えて欲しくてですねー、ここに行きたいんですけど」
「あ、分かりました。地図見せて頂きますね」
迷子かな、と地図を見てみると目的地は
「えっと……目的地が第一地区なので駅に行ってもらって、それから……」
「えぇ!?あちゃー……乗り間違えてたのかぁ。私その駅から来たんですよねー」
寝過ごしでもしたんだろうか。
「あははー、ありがとうございました!
「私は東雲四葉です。私も15歳、同い歳だね」
「え、ほんとに!?同い歳の子珍しいから嬉しい!」
珍しい……?少し不思議に思ったが深くは詮索しない方がいいなと思い、顔には出さなかった。
「四葉はここで何してたの?なんかため息ついてたけど」
「あー……うん、色々あってね」
「私でよければ話聞くよ?もちろん話したくないなら無理に話さなくていいけど」
「んーっとね」
なんと説明すればいいだろうかと少し悩んだが、まぁ何かの縁かなと思い少し話してみる事にした。
「私どうしても叶えなきゃいけない目標があるんだけど、今日それがどんなに遠いか思い知らされちゃってさ……まぁそんなところだよ」
「なるほどねー……よく分かんなかったけど、そんな四葉にいい言葉を教えてあげよう!"けせらせら"だよ!」
「ケセラセラ……?」
「気にするな!何とかなるよ!って事!見知らぬ私に親切にしてくれた四葉だもん、きっと大丈夫だよ」
なんだその理論は……と思ったが、不思議と笑えてしまった。
「ふふ……ありがとめぐる、そうかもね」
「私バカだからこんなことしか言えないけど……ってもう行かなくちゃ!」
めぐるはわたわたと慌ただしくスマホを弄ると急いでバッグにしまった。
「じゃあまたね!友達!」
「うん……友達!」
そんな大きな声と共に彼女は走って行った。何か……友達が増えたし悩みも消えたな、"けせらせら"か。いい言葉だ。あれ、でも……
「
「四葉さ~ん!お待たせしました〜!!」
買い物から杠葉さんが帰ってきた。
「杠葉さん、沢山買ったね……」
「これ、肉まん!半分こしましょう!」
「ふふ、ありがとう」
なんか元気出ました?と聞かれめぐるの事を話すとズルいですわ!私も呼び捨てにしてください!と返され、パトロール中はその話をずっとしていた。気づけば……めぐるへの疑問はどこかへと消えていた。
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