第11話 インターンシップ①
5月初頭、一つのメールが届いた。
『ランキング入りした生徒諸君、生徒の中でも優秀な君達に
「インターンシップ……職業体験って意味だっけ」
これが『特権』ってやつか。ちなみに前回の試験でランキング6位〈シックス〉に上がった。とにかく姉の情報を集める願っても無いチャンスだ、姉の事を知っている人に詳しい話が聞ければいいんだけど……そう上手くはいかないだろうな。
そんな事を考えているとスマホが震える。
『東雲ちゃんメール見た?どこの隊って書いてる?』
ドレミさんからだ、そういえばまだ読んでいる途中だった……えっと、四番隊だ。
『四番隊だった、ドレミさんは?』
『私は二番隊、一緒が良かったなー……って呼び捨てでいいってば〜!お互いがんばろーね!』
『うん、頑張ろう』
スマホを暗転させ机に置く。なんかこの間戦ったばかりだからどんな感じで話せばいいのかよく分からないんだよな。まぁ時間が解決するだろうけど。
四番隊……姉の事、少しでも知ってればいいな。
「えっと……ここだな」
インターンシップ先もそんな支部の一つであり、建物の第一印象としては普通の事務所だなぁと言った感じ。扉の前でずっと立っていても仕方が無いのでインターホンを鳴らす。
「はーい……ん?どしたの、学生?」
出てきたのは気だるそうな茶髪のお姉さん。
「インターンシップで来ました、東雲です」
「……またか。何、いたずらのつもり?今忙しいからそれじゃ」
「え?」
ぴしゃん。
……え?いやいや。
「あ、あのー?すみませーん!あのー?」
ガラガラ。
「……あのね、ここがどこか分かってる?お姉さんが学校に報告しないでおいてあげるから早く帰りなさい」
「いや……だからインターンで」
「まだ嘘つくか……ぷー」
「何してんのよ、玄関で」
急に後ろから声が聞こえた。振り向くとピンク色の髪の毛をした女の人が居た。
「聡美さんおかえりっす。なんか急に学生が来てインターンシップだのなんだのと言ってきまして……最近の学生はこんなとこにまでイタズラしに来るんすねぇ」
「あれ、四葉ちゃん?なんで……って今日何日!?」
あれ、なんで私の名前……この人知り合いだったっけ?
「十日っす」
「……今日才華学園の生徒が二人来る事になってた」
二人?あれ、聞いてなかったな。
「……」
「ヤバい?」
「少し前に1人来たんすけど追い返したっすよ……私事務所の連中連れて今から探してくるっす」
「うぅ……頼りになるぅ」
気だるげなお姉さんが私に向き直り勢いよく頭を下げる。
「ごめんなさい!伝えられてなかったとはいえ失礼なことをしちゃって!」
「い、いや!気にしないでください……」
「私は
「東雲四葉です、こちらこそお世話になります」
「……東雲?」
私の苗字に中浜さんが反応した。
「桔梗の妹よ、その子」
「え……えぇ!?じゃ、じゃあ『治癒』の……と気になるっすけどとりあえず行ってきます!」
「ん……よし、じゃあ四葉ちゃん入って」
「あ、はい」
靴を出来るだけ丁寧に並べてついて行く。
「座っていいよ、お菓子まだあったかな……」
「あ、あの!姉の事……知ってるんですか!?」
奥に行こうとする彼女につい大きな声で聞く。
「まず自己紹介を済ませちゃってもいい?」
「え?あ……そうですね、すみません」
そういえば名前すらまだ聞いていなかった。
「四番隊『アイリス』隊長の佐藤聡美。よろしくね、東雲四葉ちゃん」
「はい、よろしくお願いします……アイリス?」
「なんか何番隊〜って古くさいじゃない?それでそれぞれの隊に名前があるのよ。私達は『アイリス』。普段呼ばれる時も基本はそっちの名前で呼ばれてるわよ」
「なるほど……あの、それでさっきの質問の続きですけど」
コーヒーを二人分置くと机を挟んで対面のソファに佐藤さんが座った。
「桔梗の事ね、知ってるも何も私達友達よ。同期だし」
「ほ……ほんとですか!!?今どこに居るんですか!?何してるんですか!?何でも……っ知ってること教えてください!!!」
「……ま、そりゃそんな必死な表情にもなるよね」
ふぅ……と溜息をつきながら佐藤さんは目線を天井に移した。
「今どこに居るかは分からない……けどとある『
「とある組織?」
「『
「あ、あの……えっと」
「……私は別に逃げたりしないわよ、ほら」
そう言って名刺を手渡された。
「聞きたいこと思いついたら電話してきて。別に今全部聞こうとしなくていいから」
「は、はい!」
ここに来て正解だ……やっぱり知らない情報がたくさんあった。その上連絡先も手に入れることが出来た、何歩も前進できた気分だ。
「四葉ちゃんは桔梗の情報を集めてどうするつもりなの?」
「私の手で殺します」
さも当然の事の様に言うと、佐藤さんの表情が少しだけ変わった。
「……この前の試験さ、私もモニターで見てたのよ。あんまりこういうこと言っちゃダメなんだけど、四葉ちゃんのアルカナなら卒業後まず間違いなくウチにスカウトされるはずよ。それなのにあんな事するほど必死なのは……何で?」
『あんな事』というのは腕を犠牲にした事だろうか、目を覚ましたときに花音にも色々言われたが。
「卒業するまであと3年、しかもそこから
急に木刀で叩かれた……なんで木刀があるんだろう。
「はぁ……桔梗の妹ね、ほんと」
「一緒にしないで下さい、あんな人と……私は違います」
「とにかくあんたは命を軽く見すぎよ、アルカナの力を過信しすぎてる。そんなんじゃいつか後悔するわよ」
過信……そうだろうか。私は自分自身が弱い事を知っているし戦いには不向きな事も分かってる。だからある程度の傷や痛みを覚悟で戦ってるわけだし。
「納得してないみたいね、いいわ。とにかく今日からあんたは『アイリス』の一員。子供扱いしないから、泣き言言うんじゃないわよ"四葉"」
「……はい、佐藤さん」
「おーい……!」
少し遠くから声が聞こえた気がした。振り向くと遠くから誰かが走ってくる……目を細め何とか特定しようと試みる。
「はぁ……はぁ!ごめんね、さっきは帰しちゃって……!隊長に話は聞いたから!ほんっとにごめんなさい!」
なるほど、どうやらほんとにイタズラだと思われてたらしい。これもなにか試されてるのかと思っていたが気のせいだった。大丈夫と声をかけると中浜と名乗っていた女性は頭を上げた。
「じゃあ一緒に戻ろっか。名前もまだ聞いてなかったね、えっと……」
そういえば名乗ってすらいなかった。私は『自信満々』にそして『高らか』に自己紹介を行う。
「申し遅れました私、
「いいね、ヒーロー。口調とのギャップがすごいけど……早柚ちゃんもランキングに入ってるんだよね?何位なの?」
「2位〈セカンド〉ですわ」
「へー!それは期待しちゃうなぁ……全くなんでこんな大切な事忘れてたんだか……」
なんかブツブツ言ってますわね……上司と仲悪いのかしら。
「四葉ちゃんとは知り合いなの?」
「!」
突然の名前に足を止める。
「え?どしたー?おーい?」
「四葉さんも……いらっしゃるんですの?」
「うん、あれ?聞かされてないの?そういえば四葉ちゃん不思議そうな顔してた気が……」
「知り合いなんて……そんなんじゃないですわ」
そう……そんなんじゃない。
「そ、そうなんだ……まぁ仲良く、ね?」
四葉さんと一緒に……ついにこの日が来てしまったか。入学式の時に見かけてからいつかこんな日が来るとは思ってましたが。
頬を叩き気合いを入れ直して、改めて事務所へと向かった。
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