第10話 『電磁砲』

『警察サイドの三門怜美ちゃん、雨野大成君ペンダント破壊により強制脱落〜!警察サイドは残り2名となりました〜!』


 ステージに響き渡る声に足を止める。三門が落とされた?アルカナ使いで多少はマシだと思ってたがどうやら見込み違いだったらしい。


「……な、七星君!どうにか出来ない……っ!?」


「すみません……!僕も動けません……っ!」


 さっき逃げられた弱そうな奴を追いかけていたら別の弱そうな女が釣れた。戦う価値も無いのでさっさと牢屋に飛ばす。


「あと2人……片方は『治癒』の東雲四葉、ね」


 生徒会長に勝っただのともてはやされているが到底俺の相手になるとは思えない。蘭との戦いも邪魔が入った……結局俺が楽しめそうなのは1位〈ファースト〉と2位〈セカンド〉だけか。


「もういい、飽きた。さっさと終わらせるとするか」


 溜息をつきながら三門達が戦闘をしていたと思われる大きな音がした方向へと歩き出した。






『泥棒サイドの高橋桃ちゃん、七星瑠衣君確保〜!泥棒サイドも残り2名となりました〜!』


「……捕まっちゃったか」


「しかも同時に2人か……厳しいな」


 高橋さんはあの後七星君と合流していたのか。触れられるだけで捕まってしまう……まして相手は恐らく雲母君だ、仕方がない。


「花音、もう残りは私達2人しか居ない。助けに行こう」


「でも見張りはどうするんだ?」


「居るだろうけど雲母君はまず居ないと思う……多分高橋さん達捕まえたのは雲母君だし。となると当たって砕ける覚悟でボタンを押しに行くしかない」


「……分かった、こういう賭けばっかだな私達」


「チームメイトが有能だからね、頼りにしてるよ」


「はいはい」


 それからしばらく走って……牢屋近くの茂みまで辿り着いた。


「見張りは……やっぱり1人だね」


「ああ、牢屋のボタンはあれだな」


 捕まっている皆の姿も見えた。私達には気づいていないみたいだ。


「よし、じゃあ……カウント行くよ花音」


「3、2……」


「​───────"負荷"ロウ


「ッ四葉!!!」


 カウントの途中で花音に押し飛ばされる。花音は何も考え無しにそんな事はしない。ならこれは……何かが起きたという事だ。確証は無いがその場から距離を取り、周りを見渡す。


「え!?東雲?な、何で……いつの間に」


 その声の主は見張りの入月志保。今気づいたと見ていいだろう。という事は必然的に……。


「よお、お前が東雲四葉だな」


 花音は……居ない。


「悪い四葉!何も出来なかった!」


「東雲!雲母は『重力』のアルカナだ!」


 前方の牢屋から声が聞こえる。花音と蘭君の声、花音が居なければ2人共捕まっていた、何も出来なかったとか言わないで欲しい。アルカナは……『重力』か。


「あんたも居たならいいなさいよ」


 雲母君は入月さんに近づいていく。


「ま、これで2対1……え​───────」


「もう邪魔されたくないんでな」


 そう言いながら入月さんのペンダントを砕いた。


『警察サイドの入月志保ちゃんペンダント破壊により強制脱落〜!これでお互い1名ずつとなりました〜!』


「……なんのつもり?」


「いやなに、俺もさっきまではさっさと終わらせるつもりだったんだけど……完全に死角からの攻撃をよく避けたなと思ってな」


「それと今の行動、話が繋がらないけど」


 それに避けたのは私の力じゃない。花音のおかげだ。


「蘭と戦ってる時にうちのバカに邪魔されちまってなぁ……だから雑魚を消しただけだ」


「ふーん……仲間の事信用してないんだね」


 足元に意識を集中させつつ話を引き伸ばす。


「仲間?ハッ……自分が弱いからそんな事考えてるんだろ?俺には関係ない……それと?」


「ッ……"雷"の魔法ボルト!!!」


 胸元のペンダントを狙った雷は……簡単に避けられた。


「……これで終わりか?冗談だろ?」


『残り5分となりました~!残り5分となりました〜!お互いに頑張ってください〜!』


 5分……この状況で、残り5分。


「なぁ、この試験は他の生徒も見てるんだよな?お前ら見たか?これがあの生徒会長に勝ったとか言われてた奴の正体だぜ。奇襲は程度の低い魔法、アルカナの能力も生かせない!こんなのに負けた会長ってのも底が知れてるよなァ!!!」


「あいつ……好き勝手に……ッ!」


「お、おい落ち着け柊!」


 手札はもう尽きた。仲間も全員捕まった。そもそも出来るだけ時間を稼いで逃げ切る作戦であり、真正面から戦って勝てるなんて最初から考えていない。


「……もういい。終わりにするわ」


 まぁ、よくやった方だろう。お姉ちゃんに比べて私は天才じゃ……






『さよなら、四葉。今まで楽しかったよ』





「​───────」


「!」


 1歩、雲母君は後ろに下がった。


「四葉……?」


 今、私は何を考えていた?負けたらランキングから外れるかもしれない。姉から離れてしまう。ダメ……ダメだよそれじゃあ。


 私は復讐する為に生きてるんだから


「なんだ、やる気はあるみたいだな」


「うん。こんな所で負けてちゃ……どっちみちダメなんだよ」


「回復しか脳の無いお前に何が出来るんだ、漫画みてぇに覚醒しましたってそんなの期待してるわけじゃねぇよな?」


「……」


 雲母君に勝つためにどうするか、不思議と私は小豆沢先輩に言われていた『目標』を思い出していた。


『超スピードを出す為の方法を探すこと』


 現状を打破する為なのかは分からないが、諦めていたその『目標』を考える。たくさんのことをネットや本を使って調べた。雷そのものになれたりしないのか、そもそも電気でどうやって速くなるのか。もっと……柔軟に。


「だんまりか…… "負荷"ロウ


 これに当たると体が重くなる……花音もこれで捕まったのだろう。当たらないように逃げ回る。


『それと、人によっては魔法を組み合わせたりすることもあるで』


「組み……合わせる」


「逃がさねぇよ」


「あ……」


『組み合わせる』だ。アレなら出来るんじゃないか?もし出来るなら超スピードも限定的ではあるけど出せる。後はタイミングだ、なにしろ試したことがない。


"負荷"ロウ


「ッ"再生"リボーン!」


「木片……目くらましなんて効かねぇよ」


 会長戦で使ったのと同じ、当然対応される。でも1つ気づいた事がある、雲母君は必ず相手を動けなくしてから触る。。簡単に人を殺める力だと分かっているから?自分の力を……怖がってるから?


「!」


 走るスピードを落とすと私の周りの地面を抉りとった。やっぱりだ、当てるつもりが無い。


"雷"の魔法ボルト!」


「ちっ……効かねぇって言ってんだろ!」


 分かってるよ、でも視界が少し悪くなったでしょ。


「抉れろ!」


 退路を塞ぐために使われた『重力』のアルカナ。そこに私は


「ッああああぁぁぁ……!!!」


「なっ……!」


 すぐにアルカナの力が消える。ここだ、この瞬間だ。痛みでどうにかなりそうだが左手で"雷"の魔法と"磁力"の魔法を同時に使う。






「​───────"電磁砲"レールガン!!!」






「​ッ!!!」


 一瞬にして雲母君のペンダントを掴み、砕く。


「ッはぁ……うぅ……」


「東雲お前……」


 消える直前私にだけ聞こえる声で雲母君は言った。


「何、笑ってんだ​​───────?」






『試験終了ー!!!勝者泥棒チーム、1年1組!!!』






「四葉!!!」


 地面に膝を着く四葉の元へ駆け寄る。


「あー大丈夫大丈夫……"治癒"コンソラーレ


 数秒で右腕は元通りになった。


「……ね?」


「ね?じゃねーよ!お前……痛みとかは感じるんだろ!?」


「ほ、本当に大丈夫……?」


「……あ、ごめん……やっぱダメか……も」


 四葉が私に倒れ込む。


「せ、先生ー!早くこっち来てください!」


「マナの使いすぎだろうけど、想像したくも無い痛み我慢してたんだ、気失っても無理ねぇよ……しかし東雲の奴ほんとに勝っちまいやがったな」


「うん、でもなんて言うかその……怖いくらい『必死』だったね」


「どういう事ですか?」


「いや……そりゃ当然全力出すし頑張ったけどさ、最悪死んでてもおかしくなかったよね?東雲さん」


 確かに『治癒』のアルカナがあるとは言え……やりすぎだ。治す前に気を失ったりでもしていたら、危なかった。


「……まあとにかく私達の為にも頑張ってくれたんだ、うちの隊長が目を覚ましたらちゃんと労ってあげなきゃな」


「だな」


「はい」


「そ、それはもちろん!」






「キターーーー!!!見ました!?ねぇちゃんと見てましたーーーー!?」


「見てたわよ……ちょ、うるさ!」


「『磁力』を自分の周りに生成して『雷』を使って擬似的に『電磁砲』を作り、自分自身を弾にしたのか……なるほど、確かに面白いことを考える子だね」


「別に魔法の組み合わせなんて普通でしょ、まぁあんな危ない使い方は初めて見たけど」


 ウチと決めた『目標』まで実現させおった、ほんまにおもろいなぁ四葉ちゃんは。


「でも!」


 語尾を強めてさとさと先輩は話す。


「これが実戦なら隊の皆は全員捕まってるわけで、『電磁砲』もあんな体が消し飛ぶかもしれない使い方だし、手ぐちゃぐちゃになってたし『治癒』のアルカナがあるからって……危うすぎる。隊長としてはダメダメね」


「……とても面白いものが見れたよ、四葉ちゃんのアルカナの力も見れたしね」


「なら早く帰るわよ、眠いし」


「では校門までお供します〜」


 危うい……か。でもウチわくわくしてもうたなぁ、2人共気づいてなかったんかなぁ、あの想像を絶する痛みの中。


 四葉ちゃんが最後笑っとった事に。






「あ、あー……ごめんねー?四葉ちゃん強くてさー、私が簡単に落ちちゃったから」


「……」


「き、雲母さん?」


「ああ」


「……何よ、怒ってないの?私は怒ってるけど」


「し、志保ちゃん~」


 三門達の声が遠くなっていく。そのまま廊下を歩き……階段で足がふと止まる。

 笑ってやがった、腕を潰されて。それを見て俺は……俺は……ッ!


『怖い』と感じちまった……ッ!!!


 クソが……何をしてるんだ俺は。あれだけバカにしていた『魔法』に俺は負けたんだ。

 なんなんだアイツは、東雲四葉……クソッ……。

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