第9話 試験『ケイドロ』③

「遅くなってすまない、別の任務があってね」


「いえいえ〜ウチは暇人なので問題ないですよ、お気になさらず」


「それはそれで生徒会長としてどうなのよ……あんた」


 観客席に二人が腰掛けたのを確認しウチも座る。大きなスクリーンには四葉ちゃん達の試験が映し出されている。今日一年生の試験を見たいと獅子の牙ダンデライオンの隊長達から学園に連絡があり今に至る。


「あの黒髪の子が例の?」


 長身の黒髪の男性、一番隊隊長の明月晴斗めいげつはるとは画面から目を離さずウチに問いを投げかける。『例の』という事は四葉ちゃんの事で間違いないだろう。


「はい」


「ふーん……あれが桔梗の妹、か。まぁ似てるわね」


 続いて口を開くのは桃色の髪色をしている女性、四番隊隊長の佐藤聡美さとうさとみ。人前に出ると猫を被ったような性格になるのだが私の前では素の感じでいる。


「さとさと先輩、桔梗さんって……」


「だからその呼び方やめろ!馴れ馴れしいのよ昔っからあんたは……ったく、桔梗は」


「佐藤」


 さとさと先輩の説明が終わる前に明月さんが制止する。


「四葉ちゃん本人の口から言うならまだしも俺達が簡単に言っていい事じゃないよ」


「まぁ確かに……悪いわね美々。秘密」


「そうですか~……残念です」


 何があったかは知らないが『桔梗』という名前をウチは知っている。仮に頭に浮かべているその人の事を言っているのであれば私達三年生でその名を知らない者は多分居ない。だからこそ気になったのだが秘密なら仕方が無い。


「てかこれ泥棒側不利のルールじゃない……それに四葉ちゃんの隊アルカナ使えるやつ既に捕まってるしほぼ決まりね」


「まぁ状況だけ見たらそう見えるけど、生徒会長の見解はどうなんだい?」


「ウチは四葉ちゃんが勝つと思いますよ」


「へぇ」


「まぁ見ててください、あの子は二人が思ってるよりも面白い子ですから」






「じゃあ……始めよっか。"静寂"サイレント


 ドレミさんが そう言うと同時に音が消える。ドレミさんのアルカナは自分の声と周りの音の調整。後者には範囲の制限がある。私達は触れられたら終わり……出来るだけ短期決戦で終わらせなくちゃいけない。


「​───────!」


 横から鋭い氷が飛んでくる、雨野君の"氷"の魔法だ。もう少し反応が遅れていたら当たっていた、音が聞こえないのは本当に厄介だな……


 でもそれは相手も同じ。


 自分の足元に意識を集中させつつ……花音に視線を送る。試験前に一つだけ決めていた合図。その内容は『ただ全力で花音のマナを魔法に乗せて放出する』だ。花音が手をかざすと一瞬にして辺りは炎に包まれた。


「​───────ちょ!何これ!?」


「花音!ドレミさんを!」


「分かってる!」


『音』のアルカナが解かれると同時にドレミさんの動きを少しでも花音に止めてもらい、この隙に雨野君を落とす!


"雷"の魔法ボルト!!!」


 雨野君のペンダント目掛けて雷の弾を複数飛ばす。


「雨野君動かないで!"防御"の魔法スクード!」


 花音の魔法を捌きながらの雨野君にピンポイントの"防御"の魔法。すごいな、これが序列6位〈シックス〉……


「​なっ​───────!?」


 燃えている木の影から雷の刃がドレミさんのペンダントを貫いた。


「は!?おいマジかよ……!」


"炎"の魔法フレイム


 逃げようとする天野君に花音が"炎"の魔法を放ち、ペンダントを破壊した。


「クソ​ッ───────!」






『警察サイドの三門怜美ちゃん、雨野大成君ペンダント破壊により強制脱落〜!警察サイドは残り2名となりました〜!』






 雨野君が強制移動されたのを確認し、地面に座り込む。


「ぷー……花音が私の視線に気づいてくれなかったら危なかったぁ……」


「お、お前こそどうやって三門落としたんだよ!?あんな作戦私聞いてないぞ!」


「あれはね……私の足のかかとから"雷"の魔法で刃を作って、それをドレミさんの横の茂みまで伸ばしてたの、ドレミさんのアルカナで音が聞こえない内にね。でも花音がここら辺一帯を燃やしまくってくれたのと、雨野君のペンダントにドレミさんの意識が割かれてたおかげだよ。アレ防がれてたら正直花音の魔法頼りだったから……上手くいって良かった」


 花音の大量のマナがあってこその奇襲だった。


「……なるほど、確かに手からだけじゃないもんな魔法って。よくこんな土壇場でそんなこと思いついたなお前」


「すごーい人からの助言のおかげだよ」


「……?まぁとにかく早く離れよう。自分でやっといてあれだけど炎もやばいし、音で居場所が雲母にバレちまってるだろうし」


「……」


「……何その手は」


「ハイタッチ、しないの?」


「別にいいけど」


 目を逸らしながら花音はパチンと私の手を叩く。


「なんか照れてる?」


「照れてない……けど、なんかこういう事今までしたこと無かったから嬉しかったってだけだよ」


「……これ観客席とかに写ってるかもよ?」


「もういい!」


「ご、ごめんって!冗談だってば〜!」






「ふ、ふーん?中々やるじゃない、四葉ちゃん」


「ふふ、でしょでしょ?ウチも驚いてますけど」


 ウチが言った『形』を変える事。上手く実現させたね四葉ちゃん……あーやっぱ見に来て正解やったわぁ、満足満足。


「警察側は人数的に不利だけど……雲母君はどう出るかな」


「残り1人になった時点でほぼゲームオーバーですもんね、捕まえても捕まえても牢屋の見張りが居ないと脱出させ放題ですし」


「……ふん、まぁ見物ね」

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