第8話 試験『ケイドロ』②

 雲母の動きを警戒しつつ、周りの状況を確認する。さっきの雲母の攻撃によってえぐれた地面、木々……まるで何かに潰された様な感じだな。そして当の本人は空中に浮いている。"風"の魔法なのか、はたまた別の何かなのか。


「ある程度痛めつけるつもりだったがすぐ牢屋に連れてってやるよ。精々檻の中で後悔するんだなァ!!!」


 雲母が手をかざすと同時に凄まじい音が響く。距離をとりながら後ろを振り向くと周りがえぐられていた。範囲は広い……が避けられない程じゃない。


「逃がすかよ」


「ッ!?」


 なんだ……体が重い……!!腕も足も上がらない……重さに逆らえず膝を地面につく。


「いい眺めだな、蘭。下から見上げる景色はどうだ?」


「……『突風スコール』!!!」


「!」


 雲母が強風に吹き飛ばされると同時に重さが解除された。


「なるほど『重力』のアルカナか。お前が浮いてんのもそのせいか?」


「テメェのアルカナは『風』ってとこか。だが随分そよ風じゃねぇか」


「その割には随分吹き飛ばされてたけどな」


 1対1ならなんとかなる……が威力と範囲が危険すぎる。近づけば自分を巻き込む事を恐れてアルカナを使いづらく出来るか?


「『風刃ヴェントラマ』」


 風の刃で牽制しつつ距離を詰める。


「チッ……『負荷ロウ』」


 風刃を押し潰して下に降り距離を取った。後を追い俺も下に降りる。どうやら当たりらしいな、ならあとはで……






「『爆音波マイクショック』」






「ぐ……っ!!なんだ……っ!!?」


 突然の爆音に耳を塞ぐ。なんだ、どこからだ……?


「「『"炎"の魔法フレイム』!!!」」


 更に後方から炎の球体が複数飛んでくる。


「『風刃ヴェントラマ』!!!」


 振り向くと同時に風刃を飛ばした……が。


「はい、捕まえた♪」


 肩に何かが触れた感触と共に目の前の景色が殺風景な檻へと変わる。


「クソッ!やられた、三門のアルカナか……!」


 使のか。


「あ、1人来た」


 声の主……牢屋の前に見張りが1人いる。三門を合わせて隠れていたのは3人だった。という事は見張り以外の全員を俺の所に集中させてたわけか。一応、捕まる直前に誰かのペンダントを狙って『風刃』を飛ばしてみたが……。


『ピンポンパンポーン。泥棒サイドの蘭隼人君確保〜!そして警察サイドの林檎直葉ちゃん、ペンダント破壊により強制脱落〜!』


「す、直葉落ちちゃったの!?あんたがやったの!?」


「……」


「ちょっと!答えなさいよ!」


 審判のアナウンスが終わる。当たりはしたが三門じゃ無かったか……。悪い、皆。後は皆を信じるしかない。






 ……






「やー驚いたね、まさかあの状態から1人持っていくとは」


「それより……勝手にこんな事して、雲母さんキレてないか?大丈夫なのか?」


「おい……どういう事だ、三門」


「ほ、ほらぁ……!」


 説明しろと雲母君が近づいてくる。


「俺は1人でやるって言ったよな?なんでお前らがここにいんだよ、東雲を探しに行ってたんじゃなかったか?」


「作戦とか無いんでしょ?なら何をしようと私の勝手じゃん?」


「テメェ……」


「ま、まぁまぁ雲母さん!蘭は捕まえられたんだしいいじゃないですか!」


「……二度はねぇぞ」


 雲母君はそう吐き捨てる様に言うと森の奥へと消えていった。


「ふぅ、な、なんとかなった」


「じゃあそろそろ……東雲ちゃんの所へ行こっか〜」


「頼むからもうあの人を怒らせんなよ……」






 ……






「蘭君が捕まった……!?」


 すごい衝撃で地面が揺れたり、突然アナウンスが流れたりと忙しい……。警察側も1人落ちたと言っていた。何とか道連れにしてくれたのだろう。でも捕まったのは蘭君1人、七星君は逃がしたのか……?試験が開始してから大体10分くらいが経つ、これだけ経っても私達は誰にも会っていない。


「ど、どうするの……?東雲さん」


「……高橋さんは今すぐ1人でここを離れて。多分、蘭君の所にかなりの人員を割かれたんだ。蘭君が捕まった以上、私達が見つかるのも時間の問題だと思う。そんな時にまとまって行動するのは全滅するリスクが高すぎる」


「わ、分かった!もしみんな掴まっちゃっても私は隠れてればいいんだよね!」


「うん、それで大丈夫。もし見つかってもペンダントの破壊は狙わなくていい。全力で逃げる事だけ考えて」


「分かった!」


 そう言って高橋さんは離れていった。


「私はどうすればいい?」


「花音と私も散ろう、何とか逃げて時間を稼いで」


 遠くからでもあれだけの揺れ……とてつもない規模と威力のアルカナだ。正面から戦っても勝ち目は無いだろう。まして相手に触られるだけでアウトなんだ、防戦一方の作戦で皆には悪いが……。


「四葉……どうやらそうも言ってられないみたいだ」


「え?」


 花音の視線を追うと2つ、こちらに向かってくる姿が見えた。


「東雲ちゃーん、久しぶりー!元気にしてたー?」


「……ドレミさん、お久しぶりです」


 見たところドレミさんの隣にいるのは雨野君。雲母君では無い。目算ではあるが戦力も互いに5分。このまま逃げ切りを狙っても厳しい戦いになるのは間違いない。


 


「ごめん花音」


「ん?」


 ドレミさんから視線を外さず花音に話しかける。


「作戦変更。私と一緒に賭けて頂戴」


「……了解だ、隊長」


「そう来なくちゃ♪」

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