第3話 魔法の授業①

 カーテンの隙間から照らされる光が眩しい。寮生活初日で少し寝れるか心配だったが昨日の疲れもありよく眠れたようだ。洗面所の鏡に写った自分を見つめながら頬を叩いた。今日から本格的に授業が始まる。

 朝の準備が終わり、部屋を出る前に机に置いた家族の写真に触れる。


「いってきます」


 当然、言葉は返ってこない。バカだなと呟きながら私は部屋を出た。






 外に出ると4月を感じられる桜の花びらが舞っていた。寮と学園は当然ながらとても近くに建てられているので普通に歩くと5分もかからない。景色を眺めながら少しだけ歩く速さを緩める。春はいいな、朝からとても暖かい。


「あ!東雲ちゃんだ!おはよー!」


 後ろから声をかけられ振り向く。黄緑色の髪、紫のメッシュが入っている女子生徒。制服のボタンを1つ開けており、スカートの丈も短め。というか……


「……あなた、どこかで会ったことありましたっけ?」


「え?あー!ごめんごめん、私達初対面だよ。私、三門怜美みかどれみ。よく苗字の最後と合わせてドレミって呼ばれてます。えへへ」


「そう、なんだ……?えっと私は」


「東雲四葉ちゃんだよね、知ってるよー!」


「知ってる?」


「うんそりゃ……ってうわわ!ごめん私急がなきゃ!楽しみにしてるからねー!またね、東雲ちゃん!」


「え、ちょっと」


 行ってしまった。結局なんで私の事知ってたんだ?試験とかよく分からないこと言ってたし……不思議な人だな。

 教室に入り自分の席に着く。花音はまだ来ていないようだ。ふと、教卓の近くで話しているグループに目を向けるとあっちも私を見ていたようで目を逸らされる。そんなに露骨にされると少し悲しくもあるんだけど……。


「お、おはよう」


 そんなことを考えていると隣に花音が居た。私もおはようと一言返す。


「花音、私さ何か変な事したかなぁ」


「なんだよ急に」


「朝から知らない人に挨拶されたり、クラスでもなんか色んな人に見られてる気がして」


「自意識過剰……って言いたいとこだけどそりゃお前、昨日あんな事したらそうなるだろ」


「あーなるほど。そういう事」


 そういえば生徒ならランクマッチを誰でも見れるって言ってたな。私は笑いものにでもされてるんだろうか……。偽物の勝利、みたいな。


「あれ、でも結局試験って何の事だったんだろ」


「試験?あ、先生来た」


 花音の疑問に答える前に話はそこで終わってしまった。






「さて今日から授業を始めていく訳だが、その前に1つお前達に報告しなければいけないことがある」


「報告?」


 1番前の席の男子生徒が言葉を漏らす。


「ああ、入学早々だが今月末に試験を行う。試験と言っても筆記では無く実技の方だ」


 試験、これか。納得した様な顔をしていたのか花音にじろじろと見られた。


「クラス内で5人程度の隊を組んでもらい、同じく隊を組んだ別のクラスと対決してもらう。試験内容は……」


 竜胆先生はごほんと喉を鳴らした。クラス全員が固唾かたずを飲んで見守る中、次に出たものは意外な言葉だった。


「ドロケイだ」


「え?」


「ドロケイだ」


 いや聞こえてますよと生徒の声が上がる。私も殴り合いとかそういう感じかと思ってたけど。


「ドロケイ、と言っても遊びじゃない。当然アルカナや魔法を使い、実戦を想定した試験だ。5対5で泥棒側は制限時間の終わりまで1人でも逃げ切ったら勝ち。逆に全員捕まえたら警察側の勝ち。牢屋に行き、捕まった泥棒に触れることで仲間を逃がすことも出来る……こんな所か。当然個人それぞれの成績に直結、上位7名のランキングにも影響するので油断しないように」


 そう言うと竜胆先生は私ともう1人、男子生徒を見た気がした。


「さて、そんな試験の為にも改めて魔法の授業を始めていく、アルカナを持っている者は分かっていると思うが、アルカナや魔法は簡単に人を傷つけ、命をおびやかす、強大な力だ。心して聞くように」






「まず知っての通りアルカナや魔法を使うのに『マナ』を必要とする。生物の中にある見えない力、それがマナだ。マナは誰でも持っているものだが、量は個人差があり使いすぎると動けなくなる、戦闘中にそんなことが起きると致命的だな」


 先生はそう言いながら黒板に図を書いていく。


「次に魔法について。魔法はアルカナの研究から生まれた力。炎の魔法なら炎のアルカナの、雷の魔法なら雷のアルカナの研究から生まれたものだ。分かりやすく言うと魔法は『子供』でアルカナは『親』と言ったところだな」


「まだ研究が終わっていないアルカナも沢山存在している。東雲の『治癒』なんかがいい例だな」


 説明の途中で私の名前が呼ばれる。


「今現在もアルカナは少しずつ増えていて、研究も1歩ずつ進んでいるという訳だ……そして最後に」


 そう言って竜胆先生は教卓にを置いた。


「これは私達と魔法を繋ぐ為の指輪『リアン』、これを指にはめてマナを流す事で私達は魔法を使う事が出来るようになる。あまり見た事の無い者もいるんじゃないか?一般の者は持つことを許されていないからな」


「1つで全ての魔法が使える訳ではなく、1つのリアンに1つの魔法の力が込められている。基本的には1人5個ぐらい付けてるイメージだな。もっと付けてる者もいるが、まぁ自分のマナとの相談だな」


 桔梗の持っているリアンをよく見せてもらっていたので私は見慣れていた。先生の言う通り桔梗も5個付けていたのを覚えている。


「長くなったが説明はこんな所だ。ここからは実際に使ってもらう。皆、グラウンドに移動してくれ」

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