第2話 VS生徒会長

「悪いけどウチになんのメリットも無い話やしお断りや……と、言いたいところやけど条件次第では考えてもええよ?」


「条件次第、ですか」


 後輩に甘いとか、戦いが大好きとか都合のいい事が起きれば最高だったが話の流れとしては悪くは無い。


「入学初日の1年生が賭けられるものなんてたかが知れてますけど……何をして欲しいんですか?」


 こういうのは私が考えるより本人の口から聞いた方が早い。というかどうせ何かしら思い付いてそうだし。


「話が早くて助かるわ〜。ウチが欲しいのは『四葉ちゃんが1度だけウチの言うことをなんでもきいてくれる権利』、どう?」


「曖昧な権利ですね……」


「そんな重く考えんでもええよ、悪いようにはせえへんから」


「その権利を手に入れたとしていつ使われるんですか?」


「少なくとも今すぐにって訳では無いなぁ」


 ピンキリだが、せっかくのチャンスを逃したくは無い。


「分かりました、その条件で大丈夫です」


「よしゃ!ほな、早速体育館行こか!ウチに着いてき~」


 小豆沢先輩が前を歩き出すと同時に耳元で花音が話しかけてきた。


「お、おい大丈夫なのか?四葉がアルカナ使えたとして、相手は3年の1位〈ファースト〉なんだぞ、勝ち目あんのか?」


「分かんない」


「えぇ……ノープランかよ」


「着いた!ここやで!」


 体育館に着く……本当に体育館?目の前に広がる景色、それは住宅街や道路……小さな街と言った所だろうか。ステージって本当にこんな感じなのか。


「じゃ、ランクマッチの申請送ったから了承してな」


 スマホに申請画面が映される。了承、と。


「ランクマッチの立ち会いには先生が必要やから、さっき呼んどいたで」


 5分程して、担任の竜胆先生が来た。たまたま今回がこの先生なだけで空いてる先生が来るのだろうか。そんなことを考えていると竜胆先生がルール説明を始める。


「制限時間は30分、勝利条件を1つでも達成した時点で勝敗が決まる。勝利条件は戦闘不能と私が判断した場合、どちらかが降参と口にした場合、敵の陣地にある白旗を自陣に持ち帰った場合の3つだ。旗が取られた場合スマホを確認すれば分かるようになっている、以上!互いに自陣の位置に速やかに移動しろ!」


 という事は勝利条件の一部がやる度に変わるのだろうか。移動しながらそんな事を考える。

 言われた初期位置は住宅の2階、言われていた白旗が刺してある。少しして、天井に設置されたスピーカーから竜胆先生の声が聞こえる。


『ランクマッチは学園の生徒なら誰でもスマホ等で見れるようになっている。お互い恥ずかしくない戦いをするように』


 スマホで小豆沢先輩の初期位置はマップで確認出来る。勝ち目があるとすればここから旗を奪い持ち帰ることくらいだろう。


『それでは​───────始めッッ!!!』






 周りを警戒しながら住宅街を走る。とにかく先手だ、受け身に回って勝てる相手では無いだろう。小豆沢先輩が1位〈ファースト〉というのもあるが、そもそも私は現状魔法が使えない、それを学ぶ為に今日入学してきたわけだし。

 逆に小豆沢先輩はアルカナを持っているだろうし、魔法も使える。その上何も情報が無い。


 私にあるのはこの"治癒"のアルカナだけ。さてどうする。一応この1年間何もして来なかった訳ではないが……。


「まだこんなとこにおったんか。アルカナ使える言うから少しは警戒してたんやけど、すぐに攻めて来ないあたり戦闘に不向きなアルカナなん?」


「……ずいぶん速いんですね」


 上空から声をかけられる。飛んでいるのを見るに『浮遊』の魔法だろうか。


「安心してええよ、今日はウチ使


 小豆沢先輩が構えると同時に近くの家に走り込む。


「"炎の魔法フレイム"」


 いくつもの火の玉が勢いよく飛び出し、家の壁を破壊する。


「っ……!」


「そんな崩れ掛けの家に逃げ込んでも無駄やで、1発四葉ちゃんの足に直撃したやろ。魔法の威力とは言え走ったりとかは出来んはずや」


「"治癒コンソラーレ"」


 足に触れ瞬時に再生する。もうすぐこの家は破壊されてしまう、脱出しなければ。窓から飛び降り小豆沢先輩の拠点の方向へ走り出す。


「あくまでも旗狙い、か。しかも普通に走っとるし」


 足は止めずに家や倉庫を壁にしながら拠点を目指すが、その度に壁や床が簡単に壊され続ける。


「こんなこと続けててもジリ貧なのに辞めへんって事は、なにか作戦があるんやろ?早くウチに見せてや、四葉ちゃん」


「ならいい加減その魔法止めてくれませんかね……っ!逃げ回るだけでも結構辛いので……!」


「ウチの拠点に行きたいんやろ?このまま逃げ続ければ辿たどり着けるで〜」






「はぁ……はぁ……っ」


「鬼ごっこもここまで、やね」


 小豆沢先輩の拠点、私と同じく普通の一軒家の2階。目の前の床に白旗が刺さっている。


「四葉ちゃんのアルカナは『防御』とか『回復』って所やない?すごい能力やけどそれでどうやって持ち帰るつもりだったん?ここからまた色んな建物を壁にして鬼ごっこするつもりやったんなら……残念。お遊びはおしまい、もう逃がすつもりはあらへんよ」


「……」


 ほぼ当てられてしまった、この人やっぱり凄いんだな。


「だんまり、って事は万策尽きたって事でええな? "召喚の魔法サモン"!」


 詠唱と共に小豆沢先輩の手元に刀が召喚され、私の首元に向けられる。


「潔く諦めや。四葉ちゃんが何も言わなくても竜胆先生の判断で勝敗は決まる、自分から負けを認めた方がまだかっこつくと思うで」


 じりじりと旗のある壁まで後ずさりをする。もうこれ以上後ろへは下がれない。


「……そうかもしれないですね、でも」


 これまで集めてきた壁や床の破片を小豆沢先輩に向かって投げ付けた。


「私の作戦はです! "再生リ・ボーン"!!!」


「……っ!?」


 宙に浮いた破片はとてつもない速さで小豆沢先輩……では無く元々存在した場所へ向かおうと飛んでいく。私が投げた大量の破片と存在した家の間には当然、小豆沢先輩が居る。

 この隙に旗を手に取り走り出す。追いかけてくる気配は感じられない。あの攻撃でどの程度のダメージになっただろうか。


「びっくりしたぁ!!四葉ちゃんすごいなぁ!!!」


「​───────え」




 




「な……どういう」


 気配なんて微塵も感じられず、瞬きをしたタイミングで既にそこに居た。高速で移動をした?それにしたって速すぎる。

 今から逃げようとしても一瞬で移動出来るなら、無駄だ。


 ……負け、か。


「ふふん、これがウチのアルカナ『瞬間移動テレポート』や!どやどや?びっくりしたやろー……って、ん?」


 それまで自慢げに話していた小豆沢先輩の動きが止まった。


「あれ!?ウチ、アルカナ使っとるやん!?やってもた……」


 ため息を吐くと、小豆沢先輩は手を挙げた。


「先生、ウチ降参しますー」


「は!?」



『小豆沢の降参宣言により!勝者、東雲四葉!!!』



 小豆沢先輩が降参と言うやいなやすぐに竜胆先生のアナウンスが流れた。私の勝ち……。


「いやいや、なんでですか!」


「だって、ウチ約束やぶってもうたしー!これ全校生徒、誰でも見れるんやで?このままウチの勝ちやー!!!ってなっても生徒会長として恥ずかしいし」


 そう言いながら小豆沢先輩は私の肩に触れたかと思うと、一瞬で竜胆先生の元へ移動する。瞬間移動ってこんな感じなんだ。






「……私、完全に負けてましたよ。本当にいいんですか、1位〈ファースト〉として」


「ま、ウチにアルカナを使わせた四葉ちゃんの策の勝ちってとこやね」


「何が策の勝ちですか、会長」


「げ……さっちゃん」


「さっちゃん?」


 気づけば先生の隣にさっちゃんと呼ばれる人が居た。見た目は無表情で綺麗な女の人。ネクタイの色が小豆沢先輩と同じなので3年生なのだろう。


「初めまして四葉さん。私、生徒会副会長をしております、柳生皐やぎゅうさつきと申します。……会長、なんですかあの試合は。3年生としても1位〈ファースト〉としても何より会長としても恥ずかしいですね。アルカナを使わない約束をして間違えて使ってしまって降参、バカなんですか?」


「や、やめてぇ……!それ以上言わんといてぇ……」


「全く……では、私達はこれで失礼します。ほら行きますよバカ……あ、すみません間違えました。会長」


「わざとやろ!!あ、それじゃあまたな!四葉ちゃん!」


「は、はぁ……」


 2人はそう言って体育館から出ていった。私の勝ち……になったらしい。まぁ、あの試合内容を見て私の勝ちだと思う人は居ないだろうが。


「東雲、いい試合だった。入学初日から1位〈ファースト〉に勝ったのはすごいことだ。納得出来ていないかもしれないが、誇っていい」


「ありがとうございます竜胆先生。私も失礼します」


 気を使ってくれたのだろうか、やっぱりいい先生っぽい。とはいえ、勝負には完全に負けていた。今の私が1人の戦闘で出来ることはあの程度だったという事だ。明日からの魔法の勉強、頑張らなければ。


「四葉ー!」


 体育館を出ると後ろから花音に声をかけられた。


「花音。待っててくれたんだ、ありがとう」


「べ、別に。そんな事より見ろよ、ほら!」


 そう言ってスマホの画面を見せられる。1年生のランキング……もう更新されたらしい。私の名前は……。


「……7位〈セブンス〉か」




 ……




「負けたのに随分と楽しそうですね、会長」


「んー?ふふ、分かる?」


「"治癒"のアルカナですか。獅子の牙ダンデライオンは放っておかないでしょうね」


 さっちゃんの言う通り四葉ちゃんには黙っていてもスカウトが来るだろう。だがそれだけじゃない。


「ウチ少しではあったけど驚かされたんや。魔法が使えるようになったらどのくらい化けるやろか、楽しみやなぁ。……あーあ、ウチが勝ってたら生徒会に勧誘するつもりやったのになぁ」


「会長のせいで貴重な人材を獲得するチャンスを失いましたね」


「べ、別に後から入らんー?言うてお願いすればええやん!」


 さっちゃん厳しい!刺々しい!もっと甘やかして欲しい!


「まぁでも大変なのはこれからでしょう」


「せやな、今回のは個人戦やし……ウチも初めて隊を組んだ時大変やったな~」


「数週間後のが楽しみですね」


 久しぶりに心が高ぶるのを感じながら、生徒会室へと帰って行った。

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