ゴブリン

 とある森に足を踏み入れた。

 不気味な静寂の中、そこに住む生物たちの耳には、何かがうごめく音が絶え間なく響き渡る。枝をかき分け、苔むした岩を乗り越えると、小さな身体に大きな耳と鋭い目を持つゴブリンと目が合った。ゴブリンは驚き、小さな悲鳴を上げて逃げていった。

 ゴブリン。「緑の小鬼」とも呼ばれ、その姿は子どものようにも見えるが、決して侮ってはならないモンスターだ。ゴブリンは賢く、そして非常に狡猾なモンスターである。


 ゴブリンは社会性を持つモンスターで、群れで生活し、群れで狩りを行なう。彼らには明確な階級があり、それぞれの役割が厳格に決められているようだ。リーダーとされるゴブリンは、特に力強く、頭も良いため、群れを巧みに操ることができる。彼らのコミュニケーション方法は複雑で、鋭い叫び声や身ぶり手ぶり、時には鼻歌のような奇妙な音を立てることで、仲間と情報を共有している。そのパターンは多岐に渡る。


 ゴブリンは、肉食傾向があり、小動物や昆虫、時には魚を捕まえて食べる。しかし、彼らは非常に機会主義的であり、食物が不足すれば植物や果物を食べることも厭わない。狩りの技術は卓越しており、群れで協力して大きな獲物を取り囲み、疲れさせてから捕らえる戦術を用いる。

 先ほどの個体のように単独で行動することは珍しい。たまたま群れとはぐれただけだろうか。この近くに群れがいるのであれば、慎重に行動しなければならない。

 繁殖期にはゴブリンはより攻撃的になり、その領域は厳重に守られることになる。その時期に彼らの領域に立ち入った場合、人間でも彼らの餌食となるだろう。ここでは詳しくは記載しないが、凄惨な目に遭ったという事例は多々ある。

 とにかく、彼らの生息域に足を踏み入れる際は念入りな準備が必要なのである。


 ゴブリンの住居は、自然の形成した洞窟や大木の根が絡み合った空間を利用して作られることが多い。これらの住居は、ゴブリンたちにとってただの避難場所以上のものだ。彼らの社会性と技術を反映した複雑な構造物になっている場合がある。といっても、彼らが特定の住居を構えることは数少ない。より強大なモンスターに住処を追われるからだ。

 彼らがその住居を構えるときは、彼らにとって敵が少ない環境であるということに他ならない。

 ゴブリンは自然の素材を使いこなすことに長けており、その住処は彼らの技術の結晶でもある。木の枝や泥、石を組み合わせ、時には発光する菌類を使って住処内を照らすなど、彼らなりの工夫が随所に見られる。生息域や種族によって違いがあって面白い。

 住居の近くには侵入者を惑わすための罠も巧妙に仕掛けられている。住居を荒らそうとするものたちを、彼らは許してはおかない。


 ざわざわと森が鳴る。嫌な気配だ。

 私はモンスターが嫌うニオイの香水を身体にふりかけた。

 この森はおそらく、ゴブリンの巣……いや、さしずめ『城』といったところか。興味深いが、今は長居は不要。次は腕利きの護衛を連れて調査に来るとしよう。

 私は静かに、しかし早足で森を歩いた。

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