第4話 攻略開始

 という、大言壮語なのか何なのかよく分からない勉強目的を聞かされた俺は、ひとまず会計士の勉強に戻った。


 そういえば、貸借対照表は狩猟民の、損益計算書は農耕民の考え方が反映されていると聞いたことがあるな。講師が雑談程度に話していたので聞き流していたが。


 狩猟民にとっては、食糧は肉がメイン。今、腐っていない肉がどれだけあるか(=ストック)が重要となる。


 対して農耕民は、収穫がどれだけあったか(=フロー)を重視する。


 それぞれの決算書類にも、世界史的背景が反映されているというわけだな。


「って、そんなこと考えている場合じゃないな」


 千波の考えに毒されてしまったのかもしれない。気を付けねば。いちいち背景など深堀りしていては、勉強が遅々として進まない。もっと効率的に勉強せねば。


 でも……


 効率を求めた先に、何があるのだろう?


 ふとそんな考えが過ぎる。


 いかんいかん。


 俺はとにかく経済的に大成功して、美女にモテまくるのだ。そのためには、いちいち邪念に囚われているわけにはいかない。


 しかし、千波はどうやって成績をキープしているのだ? 背景の深堀りなどしていたら、学校の定期テストに間に合うはずもない。


 千波は勉強時間を死ぬほど確保しているのか? それとも、幼少期から大量の読書をしているとか?


「どっちもありえそうだな……って、あいつのことばっか考えてる場合じゃねぇ!」


 公認会計士短答式試験に受かり、進級もするのが目下の任務。余計なことを考えている場合ではない。


 だが、気付くと俺は、千波のことばかり気にかかっていた。


 この感情、どうすればいいのか?


 千波は美人だし、俺が恋してしまうのも仕方のないことだろう。


 ならば取るべき手は一つ。


「勉強に集中するためにも、千波と付き合う!」


 どうせ俺は、これから数多の美女と付き合うのだ。それならば、千波くらいの才色兼備女子高生の一人、攻略できないでどうする?


 交際に多少時間は取られるが、勉強に集中できるのならそれでいい。将来の成功に備え、恋愛経験は積んでおいた方がいいしな。それに、千波と仲良くなれば、なんとなく良い刺激を受けられる気がした。自分とは違い過ぎる価値観の持ち主だからだ。


「これからは忙しくなるな」


 俺は早速、明日の土曜に千波をどこかに誘ってみることにした。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る