第3話 世界征服のための勉強

 勉強の基礎固めまで味わおうとは、なんとも贅沢な考えだな。俺が考えもしなかったことだ。


「というわけで、今日も勉強で忙しいから。じゃあね、雨海真一さん」


「なぜ俺の名前を……って、あんたは?」


「ここに越してきた藍川千波。よろしく」


 随分と気軽な挨拶だな。だが、どこかで聞いたことのある名だ。


「藍川千波……まさか、藍色の川と書いて藍川?」


「そうだけど」


 藍川千波といったら、この前受けさせられた予備校の全国模試で、一位だった奴じゃないか。


「あぁ、模試の結果でも見て知ったのね。私は興味ないから見ないんだけど」


 俺はとんでもない秀才と出会ってしまったのかもしれないな。そして、順位には無頓着な感じが大物感あるな。


「さ、さすがは王者の貫禄……」


「王者は言い過ぎよ。マケドニアからインダス川西岸まで征服できたら名乗るけど」


「何の話だ?」


「本当に何も知らないのね。アレクサンドロス大王ことアレクサンダー三世の征服した領域の話よ」


 そんなの、急に言われても分かるわけない。高度すぎるジョークだな。


「さすが、英語だけでなく世界史の知識も豊富ってわけか」


「英語とか世界史とか、区分けには興味ないんだけどね。私はアリストテレスの思想さえ理解できればいいから」


「なぜそこまでアリストテレスにこだわるんだ?」


 俺はそこを訊かずにはいられなかった。


「さっき話に出たアレクサンドロス大王は、アリストテレスの弟子だったのよ。そしてかの大王は、アリストテレスの教えを受けて、個人としては世界史上最大の領土を所有するに至った。だからね、平たく言えば……」


 千波は少し恥ずかしそうに俯いた。


「どうすれば世界征服できるのか知りたいのよ」


 そんな驚くべき言葉が出てきた。なのに、不思議と説得力を感じる。


「実際どうするかじゃなく、考え方とか心構えの方をね。アレクサンドロス大王は世界の半分くらいを制圧したけど、私はどうすれば世界のすべてを征服できるのか知りたい。それには、アリストテレスの思想を完全理解して、それを超える理論を組み立てないといけない」


「そうか……」


 なんだか、発想が高度なのか幼稚なのか分からなくなってきたな。天才の考えることはよく分からない。

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