第2話 テクニックと人間性

「深堀りね……面倒じゃないのか?」


 俺は思わずそう問いかける。深掘りなどいちいちしていては効率が悪い。丸暗記できるところは丸暗記してしまった方がいいに決まっている。


「それだと、勉強が無意味で単純な作業になってしまうでしょ? それじゃ、労働者と変わらない。私たちはまだ学生なんだから、労働しなくていい特権を味わうべきだと思うの」


 なるほどな。労働者にも色々あるとは思うが、彼女が言っているのは昔の奴隷がするような単純作業のことだろう。確かに、それは嫌だが。


「俺はゲーム感覚でやってるよ。小さなゴールを立てて、それに向けてレベルを上げてボスを倒すイメージで勉強してる。いわゆるゲーミフィケーションってやつだな」


「ふぅん」


 彼女は興味なさげな相槌を打った。


「勉強する理由までテクニックに落とし込むのって、つまらなくない?」


「え?」


 俺は彼女が何を言っているのか分からなかった。テクニックを使うことの何が悪いのか? そもそも、勉強なんてつまらなくても面白くても、どっちでもいいだろ? 金を稼ぐための手段なんだから。


「何事もそうだけど、テクニックと人間性は両輪だと思うの」


「はぁ、両輪……って、俺の人間性に問題があると!?」


「そこまでは言ってない」


 彼女は一切の感情をみせず、ぴしゃりと否定した。さっきダイモンについて解説していたときのテンションとは大違いだな。


「でも、勉強なんて手段に過ぎないだろ?」


「【教育の根は苦いが、その果実は甘い】」


「え?」


「万学の祖と呼ばれたアリストテレスの言葉よ。要は、基礎を固めないと学問の醍醐味は味わえないってことね。でもね、私は根っこも果実も、美味しく頂きたいと思ってる」


「そんなことが……」


「可能だと思う。勉強する理由を突き詰めればね」


 彼女はそう言ってのけた。

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