第12話 戦の後
○✕国、:|●郡、某屋敷。
モノクロに包まれた縁側で、将門と純友は盃を酌み交わしていた。互いに武装を解いているが、その傍らには太刀が置かれている。
「まさかお前と呑むことになるとはね」
「真よな。敵だった者と酒を呑むなど、本来はあり得ぬこと。この世界が混沌たる所以よ」
そう言うと、将門は一杯を飲み干した。
「ところで純友よ。お主、異界の女を殺そうとしたな?」
「はぁ? 何の話だ?」
「とぼけんでも良い。鍛練すらしておらぬ女に、自慢の息子をコケにされたのだから、さぞ腹が立って仕様がなかったろう」
本音を催促するように顎を突き出され、純友はしぶしぶ口を開いた。
「……屋敷に誘って、ホイホイ着いてくるようなら殺そうと思ってた」
「やはりな。お主、殺意を隠しきれていなかったぞ」
「そうか……」
純友は深いため息を吐くと、額に手を当てた。
「あいつ、ちゃんとやれるかな」
「お主の息子のことか? 大丈夫であろう。深手であれほど動けたのだ、彼奴は相当腕が立つ。そこにお主の太刀が加われば、鬼に金棒であろうに」
「そんなん、父親である俺が一番分かってるよ。あいつは強い。でもなぁ……。そうは言っても、まだガキなんだよ。精神面はまだまだ……」
「だーっはっはっは!!」
将門は豪快に笑うと、純友の隣へどすんと座り肩をバシバシと叩き始めた。
「素直に申せ! 息子が大切で、どうしようもないくらいに心配だと!」
「なっ……、そんなこと──っつか、酒臭っ!? 呑みすぎだお前!」
「儂は酔ってなどおらんぞ? むしろお主が呑んでおらんのだ。ほれ、もっと呑め」
「がぼっ!?」
将門は、純友の肩にがっちりと手を回すと、強引に酒を流し込んだ。
「何してくれてんだ、てめぇ!」
「良いではないか。それはそうと、お主らは何故陸におるのだ? お主らの生息地は海であろう?」
「打ち上げられた魚みてぇに言うな。はっ倒すぞ」
「おう怖い怖い。儂も殺されてしまうな」
将門は大げさに言うと、そそくさと元の場所に座り直した。
「……追い出されたんだよ。バケモンに」
口元を乱雑に拭うと、純友は神妙な面持ちで言った。
「ほう、化け物とは。海の怒りにでも触れたか?」
「さぁ、知らん。だが、あんなんに遭遇したら、もう2度と海に行こうなんて思えなくなったな」
「何を申すか。お主らは海の──」
「突然、何百もの獣の頭に襲われてみろ。そりゃ陸に適応できるようにするだろ」
将門の揶揄を引っ張りだして言い返す純友。化け物の特徴を聞いた将門は、目を見開いた。
「獣だと? 海に……?」
「ああ。馬だの牛だの羊だの犬だの……。もう兎に角、色んな獣畜生の頭が生えた、巨大な魚だったよ。やべーだろ?」
そう言って、純友はぐい、と酒を煽った。将門に呑まされ、程よく酔いが回ってきたのだろう。
「そのような化け物……、書物で見たこともなければ、聞いたこともない。それが真におるのならば、術士どもの国の────」
将門が言いかけた、その瞬間。
ゴゥッッッッ────────!!
鈍い音とともに、庭園から轟音が鳴った。
「下がれ、純友!」
将門がすぐさま刀を抜き、炎の防壁を作る。それにより、立ち上った砂が室内に入り込むことは免れた。
「あーあ。あっさり石を渡しちゃうなんて、ほんとに役立たず」
砂塵の中から現れたのは、何百もの獣の頭部。その頂点には、金髪で褐色肌の少年が座っていた。
「奴が例の化け物か!?」
「ああ……、そいつだ!」
将門の問いに答えながら、純友も太刀を抜く。
「だが何故だ!? 奴は海にいたはず──」
「この状況で理由を求むるのは愚行だ。何も考えるな! 共に戦うぞ!」
それぞれが武器を構え、化け物と対峙する。砂の中から現れた化け物は、楽しそうに笑うのだった──。
一章・合体!? 承平天慶の乱 ~完~
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