第3話「杉野さんの優しさ」

レッスンを重ねる内に、バイオリンの基本操作はだいぶマスターできるようになった。しかし、杉野さんの演奏は程遠い域にある。繊細で心地よい音色、そして表情豊かな弓使いには magician のような魅力がある。私の演奏の拙さに気づかず、褒めてくれる杉野さんの優しさに励まされている。


ある日のレッスン中、バイオリンの音が大きすぎて指を間違えて弾いてしまった。すぐに気づいて止めたが、杉野さんは「だいじょうぶ、もう一度」と優しく言葉を掛けてくれた。その瞬間、杉野さんの心の奥底にある温かさを感じ取れた気がした。


レッスンが終わり、杉野さんと別れ際に「楽しかった、またね」と言われた時は、頬を熱くしてしまった。杉野さんは自分を必要としてくれている、そう思えたからだ。閉じていた心の扉が、少し開いたような気がした。杉野さんとの時間が、こんなにも大切なのだと実感した瞬間だった。

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