第01話 人を呪わば穴二つ

「あんたがそんなにおバカさんだったとは知りませんでした」


 と言って、ペコリと内藤くんに頭を下げた待子ちゃんは自転車を立ち漕ぎしながら学校へと急ぐ。


 当の内藤くんはといえば、目をしば立たせてぶたれた頬に手を当てて、ぼんやりしている。


「こほん。じゃあさ。とりあえずこのあたしが、女子代表として、なんで待子ちゃんが怒っているのかを説明してあげよう」

「今のは内藤が悪いよ。山田はずっと昔から内藤のことを好きでいるし、その気持ちを裏切るような最悪なことを言った。そして、山田が公平なんかに簡単になびくような軽い女だと思われたことがショックで。更にずっと仲良しだったはずの内藤の口から、呪いとか恐ろしい言葉が出てきてすっごく驚いて傷ついた。しかも得体のしれないものに、得体のしれないことをたのむものなら、内藤が危険な目に合うんじゃないかと心配した。だから山田は本気で怒ったんだ」


 おおう。臼井くんにしては上出来じゃない。


「ほら、早く追いかけなさいよっ」


 あたしと臼井くんの手が重なるように内藤くんの背を押した。


「行ってくる」


 内藤くん、待子ちゃんはいつだってもてもてなきみのことを心配してるんだよ。そして、一緒に側にいられるためにたくさんの努力もしてる。それを忘れないで。


 あとね、人を呪わば穴二つって言葉があるから、呪ったりとかしない方がいいよ、って、あたしがぶつくさ言ってたら、臼井くんに笑われてしまった。


 なんだよ、臼井くんのくせにい。


 今の、ちょっとかっこよかったよね。


 臼井くんと重なった手のひらのあたたかさが残ってる。


 けどさぁ。やっぱり公平くんがあまりにも節操なく女の子を口説きまくっているのが問題だと思う。


「性格って、治らないものだよね」

「うわっ。びっくりした。おはよう、ノゾミくん。いつも神出鬼没だよね」


 赤い髪の美少年。星空 望水ノゾミくんが藪から突然あらわれて、本気で驚いた。


 ノゾミくんには親衛隊がいるらしくて、いつの間にか現れたり、消えたりするのが得意なんだ。


 それに、双子の妹の夏奈なつなちゃんは、大手モデル事務所にスカウトされて、今では遠い存在。でも、葬儀会社のコマーシャルで使われてから、あっという間に人気になっちゃって、ノゾミくん、なんだか寂しそう。


「それで? なんの話をしていたんだい?」

「ああ、それがね。変な人に頼み事をすると、願いを叶えてくれるっていう?」


 すぐさま臼井くんが違う、とツッコミを入れる。


「いやね、内藤が変な話を持ってきてさぁ」

「ぷくくくっ。臼井くんだっておなじようなもんじゃん」


 へぇ~? と小首をかしげる可愛らしいノゾミくん。本当は夏奈ちゃんと一緒にスカウトされたんだけど、ぼくにはやることがある、って断っちゃったんだって。そんなんで更に親衛隊の数が増える増える。


「あっ!?」


 ブロックのかけらに足を取られて転ぶ寸前のところを、臼井くんが助けてくれた。


「ごめん。ありがとう」

「いや、その。怪我しなかった?」

「うんっ!!」


 直視してしまったー。あたしの王子様、臼井くんの朴訥とした真顔。すき。


「なるほどね。でも、呪うとか祟るとか、あまりいいイメージではないね」


 反対側をノゾミくんに支えられて、そう囁いた。


「そうだよね。けど。なんか気にならない?」

「やめておきなよ。もし、きみたちに墓地で一晩明かす勇気があるのなら、話は変わってくるけど?」


 お。その顔は、なにか知っているっぽい。なんだ、なんだ?


 つづく


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