呪いの終焉

第00話 軌道修正

「ふわぁ〜。いい天気。今日も張り切って勉強しちゃうぞっ」

「張り切るのは結構。学校まで時間があるなら、少し廊下を拭いていらっしゃい」


 はーい、と答えて腕をまくる。それにしても、ラッキーだったなぁ。


 転勤ばっかりのお父さんだったけど、突然会社が倒産しちゃって大騒ぎ。


 結局、時子トキコお婆ちゃんに頼るしかなくて、あたしたちはこの温泉旅館で働きながら勉強をさせてもらうことができた。


 もうね、幼稚園まではずっとここに住んでいたんだけど、今来てもあまり変わりがなくて。仲良しだった待子マチ子ちゃんや、いじわるばっかりする公平コウヘイくんとかと再会しても、全然違和感なし。


 ただ、待子ちゃんが幼馴染の内藤くんと、正式に婚約してるって聞いちゃったら、中学生としては、いろいろと気になるところだよね。


「ミャー」

「あら、アカリにゃん。今日はごきげんいかがですか?」

「シャーッ!! フミャーン」


 野良猫からここの子になったアカリちゃんは、毛艶のいい毛を見せつけるように横切った。なぜだかあたしにだけは懐いてくれないの。


 そして。ああ。いいんだけどね。そこは今拭いたばっかりなんですよ。本当にあたしが嫌いなのね、アカリちゃん。


 よし、みんながこの旅館で楽しい気分を味わえますようにっ。


 ん、雑巾がけ終わった。


「廊下を拭かせてもらいました。居候の身の上でありながら、学校に通わせてもらえる幸せ、今日もちゃっかりいってきまーす」


 もったいなくも、従業員さんたちみんなでいってらっしゃーい、と送り届けられて道に出たら、お隣の臼井くんとばったり出会っちゃった。


「おはよう、臼井くん」


 臼井くんは人見知りがはげしくて、あたしが相手でも遠慮しちゃうところがあるから、しっかりサポートしてあげなきゃ!


「お、おはよう。笠原」

「うん。いいよ、笠原でも。でも、できれば結香ユイカって呼んで欲しいんだけどね」


 でも、贅沢は敵だ。あたしだって、臼井くんの名前を呼んだことがないんだから。おあいこ、おあいこ。


 チリーンと、縦一列に並んで自転車組の待子ちゃんと内藤くんがやってくる。


「おはようございます。今日も笑顔が素敵な結香さんですわね」

「おっとぅ、その手には乗りませんぜ、自転車だけに」


 がははははっって、みんなで大きな口を開けて笑って。それから少し、言いにくそうに内藤くんから話しかけられた。


「ねぇ、みんな知ってる? とやらに頼めば、嫌いな奴の端末ことを呪ってくれるらしいよ」

「まぁーた、また。ナイトゥーきゅんはすーぐオカルトに引かれちゃうんだから。そんなことしなくても、わたしたち仲良しでしょ? それとも嫌いな奴がどこかに居るの?」


 待子ちゃんは皮肉っぽい笑顔で内藤くんの脇腹を突っついた。


「いないけど、さ。公平コウヘイが待子にちょっかい出してくるからさ。なんなら呪ってやろうかな、って――」


 ぴしゃんと内藤くんの頬が叩かれた。内藤くんの方が待子ちゃんよりずっと背が高いのに、待子ちゃんは目に涙をためて怒っている。


 つづく






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