第3話

 ノゾ様は、たしかにコウヘイさんが消え果てたのを見届けた。


「ふふっ。今度もやっぱりぼくの勝ちだったな。ユイカ」


 ふいに温泉をかぶろうとしていた手を止める。


「お邪魔でなければ、ぼくもきみたちと一緒に消えてもいいだろうか?」

「あたしはいいよ」

「おれも。やっと追いついたのに、いっつもタイミングが悪くてさ。これ、左手の薬指にはめてもいい?」


 シンプルなシルバーの指輪。ただし少しだけ歪だ。まるで臼井のよう。


「おれが作った。急いでたから、なくさなくてよかったよ」

「ん!」


 あたしは無言で左手を臼井の方に向けた。


 臼井も照れながらあたしの薬指に指輪をつけてくれた。


「お姉さんのもあるよ、首にかけてもいい?」


 今度はシルバーのネックレスをノゾ様の首にかけた。


「ねぇ、臼井はどうして呪いの解き方を知ったの?」

「なんとなくかな? だってほら。おれたちいつも一緒だったじゃん。以心伝心っていうかさ? だから、コウヘイさんだけは、おれの手で始末したかったんだ」


 臼井はとろけるように幸せそうな顔であたしを見つめる。


「一回でいいからそのっ」


 言わなくてもわかるよ。あたしも臼井のこと、好きになっていた。だから、端末機を持ったまま、三人で浴場へと向かう。


 最後に東原様によろしくお願いします、と言付けて。


 あらゆる端末をお湯にひたして、あたしは臼井に口づけた。


「え? どうして?」

「キョトンとしてるな、やっぱりどんくさくて好き」


 今度は迷わず臼井の方から口づけを交わした。


「まったく。ぼくも一緒なことを忘れないでくれたまえよ」


 最後にそろったパーツ。それは簡単に証せるものではない。なによりコウヘイさんには人を愛する気持ちすらなかったのだから。


「あーあ、極楽、極楽っと」


 ふざけていたら、本当に極楽に行ってしまいそうで、少し怖くなった。


「大丈夫だよ、ユイカ。最後に種明かし。『あの方』とはどうやらぼくのことらしい。もちろんそれは、コウヘイの暴言だけどね。そして、薔薇の香りはぼくのことを忘れないよう、定期的に流してたんだ。これで、ぼくのことを嫌いになった?」


 ノゾ様でも、不安になったりするんだな。


「嫌ったりしないよ。ただ、次に会う時も、みんな一緒だったら嬉しいんだけど」

「善処するよ」


 こうしてあたしたちの呪いは完全に消えた。呪いを消すためには、端末機を見ないようにするか、あるいは修理に出すか。それとも、壊れるのを覚悟で温泉に漬けるかのどれかを選べば解決するだなんて。


 そういえば、あのドラマの結末もそんな感じだったっけ? 超能力的ななにか。ふふっ。ノゾ様は結末までわかっていたんだね。


 明け方の空に、遅れてきたなんたら流星群が空から降り注いでくる。


 今度は絶対に間違えないから。


「ふふっ。ありがとう、ジロウちゃん」


 笑わないはずのあたしを、笑顔にさせてくれた。だから、もういい。


 たくさんの感謝の気持ちを、星空に預け、そして、ゆっくりとあたしも消えた。


 つづく




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