第2話
「え?」
二人分の端末がお湯の中に浸かると、マチ子さんと内藤さんの二人は、指を絡み合わせて口づけをした。
「はわわわわっ」
仕事以外ではほとんど恋愛経験のないあたしには刺激が強すぎてて、二人から目をそらそうとした。
「笠原殿、目をそらさず、はっきりと見るがよい。そなたには、どう映る?」
東原様?
濃厚な口づけを交わす二人の姿が、霞のように色をなくし、柄杓の中の端末機も、マチ子さんと内藤さんも、綺麗さっぱり消えはててしまった。
「どういうこと?」
「温泉の成分と、東原様のお祓いのおかげだよ。みんな一度すべてのパーツを解体して、新しいなにかに生まれ変わるんだ」
手のひらにいる小さなノゾ様が、弱々しく説明してくれた。
「そんな。……あたしもそうなの?」
それはただ、自分が人間ではないと確認を取るための質問だった。
「みんな、どんどん湯を運んで来て!!」
たぬきの従業員たちも次々と端末をお湯につけてゆく。
お湯が届くのを待ちきれなくて、自ら温泉に浸かりに行く者までいた。
この呪いを消すために、今、できることを。たとえば生まれ変わることすらできなくても、これを止めてしまわなければ、この星が終わってしまう。
「はぁ〜ん? ふざけた解除方法だこと。あんた、こうなることを知るために、わざわざこんな回りくどいことをしていたの?」
アカリさんは、柄杓のお湯を頭からかぶって、スマートフォンをお湯に沈めた。
「それ、たぬきも連れて行け」
どこまで強欲なのだろう。この場において、コウヘイさんがたぬきの女将さんを蹴飛ばした。柄杓のお湯が大量にかかり、そして、スマホも湯に沈めた。
「さてと。ようやくうるさいメスどもを処分してやったぜ。あーあ、色男はつらいねぇ」
なんて勝手に自分に酔っているコウヘイさんが、目を充血させて、あたしを睨みつける。
「やっと決着が付きそうだが、お前を守ってくれるはずの戦士は、間に合わなかったようだな」
あまりの気味の悪さに、あたしの膝ががくがくと震えて、上手く逃げられない。
「さぁ〜てと。お前らを片付けちまえば、俺の勝ち。今のお心はどのようになってんのかな?」
ブッシャーっと、豪快にホースのお湯がコウヘイさんにかかる。
「なに!? 一体誰が?」
振り向けばそこに、息を切らせた臼井が、楽しそうにホースでコウヘイさんだけを狙う。
「なんだよ。臼井のクセに……」
みんなを偽り、嘘の笑顔でたらしこみまくったコウヘイさんが、どんどん薄くなってゆく。
そして、最後になんとも言えない怒号をわめきながら、コウヘイさんも消えてしまった。
コレでいいんだ、と少しだけ安心するけれど、本当にコレで良かったのかな、なんて不安もあったりした。
つづく
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