第53話 はじまり
「心配しなくていいよ。いつの日か、ぼくは必ずきみを守れる力を手に入れて見せる。いつまでもきみと一緒にいられるように少しずつ考えてみるよ。だから、待っていて。その場所で、しばらく待っていて。必ずぼくが助けに行くから」
待っていてって言われても。あれ? あたし中学生に成長している。なんで?
けど、せっかくここまで来たのに、またお別れかぁ。けど、それじゃあ……。
「前衛、突破されました。ノゾミ様、これでは戦うことすらできません」
マモルさんは、平たいノートにいろんなことを書きつけている。そのかたわらでジロウもキーボードをカタカタと叩いていた。もはや人間の為せる早さではない。
「悔しいな。ぼくにはこの姿はとてもお気に入りだったのに。また記憶を一部分解して、再起動できたらまた再構築し直してしまうけれど。ユイカはぼくを覚えていてくれるといいけど」
あの、とマチ子さんがおずおずと話に割り込む。なんの用だ? とノゾ様は機嫌が悪そうに聞き耳を立てている。顔はまったく別のものを見ているのだか。
「ノゾ様、わたくしの心変わりをどうかお許しください。わたくし、ユイカ様のお側にできるだけつかせてください。わたくしはユイカ様を守れるようになりたいです」
本当にそれでもいいのか? とノゾ様がマチ子さんから目を離さずにいる。
「そういうこととなれば、マチ子はしばらくマモルに会えなくなるのだぞ?」
ちょっとした雨が、はらはらと屋根を静かに打った。
「自分も、それでいいです。そのうちに人間界にも行ってみたいですし」
あー!! と、ノゾ様が大声を出す。
「どんどんややこしくなるな。もう、逃げられないけどそれでいいかい? なんとかまた会えるように、御札を額に貼り付けるよ。黄金の御札なんて、最高じゃない?」
ノゾ様は一人ずつの額に黄金の御札を貼り付ける。御札はたいして時間も立っていないのに、水のように肌に吸い込まれて消えた。
「それで? 今度はジロウに乗り移ったのかい? コウヘイ」
「ふん。さすがに気づいたか。おれもいつか、お前を探し出してやるから安心しな」
「変わらず口ばかりだな。こんなのと一時的にでも婚約者だったなんて、ヘドが出る。しかもこいつの趣味で女装までさせられるだなんて」
「なんとでも言ってろ。こっちももう持たないな。いいか、次こそはお前の記憶の中にある国家機密を手に入れてみせるからな」
「うるさいな、もういい!! ユイカとマチ子は強制ワープする」
そして、あたしはマチ子さんに本当に恋人と会えなくてもいいの? と聞いてみる。
「どうかお気になさらないでください。わたくしは自分の意志で、ユイカさんを守りたいのです」
ワープがおわりを告げる頃、マチ子さんは小声でこう言うのだった。
「どこにいたって、結局わたくしたちを受け入れてくれる星はない。どこにいっても宇宙人扱いされてしまうのだから」
宇宙人? AIでもアバターでもなく、宇宙人なの?
あたしの不安を感じ取ったマチ子さんは、それでもすぐに記憶操作と再構築をするので、特に不便と感じることもないですよ。
そして、あたしはまた子供にもどって、お母さんにたくさん叱られた。
そして、あのクソガキ三人は、神隠しにあったということで、しばらく学校に通っていたけれど、毎度毎度、どこに行っても神隠しにあった、と何度も通りすがりの人たちにさえ同じ言葉を繰り返すものだから、常にとりまきの真ん中のポジションにいたのに、皆んなで彼ら三人を笑うようになって、そして過酷なイジメや完全に無視されたりしていた。
それだけでもう、言わなければよかったのに、とも思っていたけども、結局嘘でしたー。と言ってしまうものだから、一度病院で見てもらうことになったという。
マチ子さんの記憶も、あの日のことも、ほとんどの記憶を思い出したあたしは、この三人が遠い病院に入院することになってしまったので、少なからずまきこんでしまったことを後悔している。
でも、そんなことは子供の頃に見た幻覚のようにも感じた。そして、都合の悪いことは勝手に頭の中から消去するのも他愛のないことだった。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます