第52話 AIサーカス

「はい、着いたよ。みんなもおいで」


 マモルお兄さんは、なんの迷いもなく、この町で一番大きなグラウンドの前で、親指と人差指をパチンと大きく鳴らした。


 そのとたん、雑草以外になにもなかったはずの目の前に、大きなテントをはった、サーカス小屋があらわれた。


「ユイカちゃん、大丈夫かい? 気分が悪くなったりしてない?」

「へいき、です。でも、あれはなんですか?」


 どうしてさっきまで見えなかったのに、今は見えているのだろう?


「あれがぼくの職場。AI及び、アバターのサーカス小屋にようこそ。あれはね。普通の人間には見せないようにしてあるんだよ。AIとアバターを頑なに否定する警察みたいなのが存在しているからね。バレたらそく退場。またどこかへ逃げるつもりさ」


 そこへ、やたら大きなおじさんが、体中に蛇をまとわり付かせて近づいてきた。


「おう、マモルお帰り。デカい口叩いて出て行った割には、その程度かよ。はっははっ」


 豪快に笑うおじさんを前にして、あたしたちこどもは蛇とおじさんの両方がこわかった。反対にマモルお兄さんはさみしかったとばかりにそのおじさんに身を寄せてスリスリしている。


「まぁ〜ったくこれだから少しも町の連中のことを聞き出すのも大変なんだよな」

「そーっすね」


 やけにドライな態度のマモルに対して、おじさんは三人の男の子たちをめずらしそうに眺めている。


「え、あのー、ですねぇ。ぼくは結局、頼まれていた犬と猫と小鳥をみつけられなかったんですよ。ですからアニィ、悪いんですがこのクソガキどもを立派な犬と猫と小鳥の姿にしてやってくれます?」


 へん、とおじさんは鼻で笑い飛ばした。


「おいおい、このサーカス大丈夫かぁ? よりによって、犬と猫と小鳥の代役が地元のクソガキだなんてさ。マモルのことだから、親に何も言ってないで連れてきたんだろ? 騒ぎになったらめんどくせぇのにさ」


 どこからかごきげんな笛の音が響いてきて、おじさんの頭の上で、大小の蛇がくねくねと踊っていた。


「マモル、クソガキはともかく、その女の子はなんだ?」


 いつの間に横にいたのか、赤い髪のきれいな子は、あたしを見つめた。いいなぁ。これだけかわいくてきれいだと、髪型だってショートボブがよく似合うもん。


「ノゾミ坊っちゃんも退屈だと思ってさ。とりあえずともだち枠でさらってきた」


 さらうって、あたしがさらわれたの?


「ぼくのことはノゾ様といいたまえ。親類が迷惑をかけてすまなかった。そしてきみはもう、帰ってしまった方がいい」


 つまりは、ここでそんなことが起こるという前ぶれなのかな?


「だが、このクソガキどものせいで、この町でサーカスをできなくなってしまった。もうすぐここに、AIとアバター共通起動部隊がやってくるはずだ」


 そこに、ふわふわしたいいにおいがしてきた。ばら? のかおり?


「だったらクソガキ三人分の記憶を操作して、神隠しにあった、とでも記憶をすり替えて、さっさと町に返してしまったらどうです?」


 なんだか、こわいことを言っているような気がする。


「おいマチ子。子供をおどかせてどうする? ついでにその女の子の名前は?」

「あ、あたしはユイカ、笠原 ユイカです」


 こわいながらも、マチ子さんがあたしをなでてくれた。


「うん? それじゃあ、この子がぼくの?」


 赤い髪の子は、さっきよりまじまじとあたしを観察し始める。


「この子が、将来的にぼくを受け入れてくれると? そういうこと?」


 パチパチと拍手の音がする。


 うけいれる、って、どういうことなの?


 つづく



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