第51話 スマホ↹呪い

 知っているはずの道が、やけにざわついている。こんなこと、今までなかったのに。


「おい、笠原! お前んちビンボーだから、今夜のサーカス見に行く金もないだろう」


 あたしはいつも意地悪をしてくるその男の子を睨みつけた。


「へぇー? そうなのかい? でも、今夜のユイカちゃんは見るだけでなく、参加してもらうことになっているから。その勇士ゆうしをぜひ見てもらいたいなぁ。そう、入場料を払ってさえくれたら、なのだけどね」


 にこにこしながらマモルお兄ちゃんが答えたら、男の子たちはくっそう! と小石を拾って投げて来ようとしている。


 マモルお兄ちゃんは、その子に少しも触らずに、彼の手の中の小石を砂になるほどすりつぶした。もちろん、その子は痛みを感じてはいなかったけれど。とてもおどろいている。


「んー? そうだなぁ。せっかくだから、きみたちも参加してみる? ちょうど犬と猫と小鳥が必要だったんだその身代わりになってもらおうか」


 歌うように役に飲みこまれてしまったのか、マモルお兄さんはからからと笑っていた。


「ムリムリムリムリ!!」


 そう言えば、この子は鉄棒が苦手だったよね。


「おやぁ? ただで入場できて、しかも特別枠で参加もできる。やるよね? もし参加しなければ、きみたちの肉体を空っぽにして、AIの肉体として役に立ってくれてもいいけど?」


 急にあたりがさむくなった。どうしよう? マモルお兄さんがとてもこわい顔をしている。


「ぐっ。お前、胡散臭いと思ったらAIなのかよっ!!」

「おれたちだって知ってるぜ。学校で何回もAIには近づかないようにと言われてるからな」

「そうだ。こいつらAIだから、AI刈りのおまわりさんに通報してやる」


 少年がポケットの中から取り出したスマホを機動させると、なんじゃこりゃ!? とわめき出し、スマホを地面に叩きつけた。


「おや? きみたちが悪いことを考えているから、うっかりAI防衛隊が発動しちゃったみたいだね。だって、その画面は真っ黒で、血文字であなたの端末は呪われていますって書いてあるのだろう?」

「お前だ!! お前がこんなことをしたんだ!!」

「はて? それでおわりなんかにしないよ? きみたちのスマホも見てご覧よ?」


 他の少年二人は、おたがいに顔を見せ合い、スマホを機動させると、やはり黒い画面に血文字でおなじ言葉が書かれていた。


「ね、ねぇ? お兄さん。この子たちも反省していると思うから、その呪いを解いてあげてよ?」


 さっきよりもずっとたのしそうにマモルお兄さんはケタケタと笑う。


「さぁーて。じゃ、ワープするよ」


 お兄さんがそう言うと、とても目を開けていられないほどの記憶、みんなの記憶がさらけ出された。


 中でも、一番えらそうにしていた少年が、今でもおねしょをしている場面がうつったり、わけがわからずめまいがした。


 立っていることすらやっとのところで、マモルお兄さんがあたしの体を優しくエスコートしてくれた。


 誰かがなにかを叫んだけれど、それは音にならなかった。


 つづく



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