第40話

 ぴちょんって、水滴の音がした。


 得意の精神統一。不思議なピクトグラムが脳裏を埋め尽くす。


 そのあたしの肩に、可愛らしい黄色のカナリアが止まった。その頭を静かになでてあげる。


 嬉しかったのか、美しい声で鳴くカナリアはあたしの頬にスリスリと体をこすりつけた。


『大丈夫ですよ』


 このカナリア、マチ子さんの声を真似して鳴いているのかな? おなじ声をしている。


『どんな形になっても、ユイカさんのことは必ずわたくしが守ります。ですから、どうか恐れないでください。あなたの進む道は、想像していたよりもずっと大変だと言うことを。わたくしが気づいてしまった以上、この状態を挽回するためにすべてのアイテムが必要になりました。ですから急ぎ、ここをたつことに決めました。ごめんなさい、ユイカさん。あまり早まった行動をしないよう、充分お気をつけくださいね。それとわたくしのスマートフォンは、誰にも見せてはいけませんからね』


 よし、わかったぞ。


 あたしは必殺、どこでも簡単に眠れるアイテム、アイマスクと精神統一でまどろみ、不思議な夢を見た。


 つまりそれが、マチ子さんから託されたことなんだよね。


 ってことは、そろそろお噂のマモルきゅんに会えるってことだね。


 たぬきはもともと化けるの得意だからね。最初から信用してないもん。


 で、また起きて服に着替えて、ポーチをそうっと忍ばせて、カバンを持った。


 瞬間、脳裏に黒地に白のピクトグラムがやたら大量に流れてくる。え? なにこれ? やだ、また貧血かなぁ?


 やっぱりお酒はあきらめよう。なんとなくだけど、今はそんなのんきにかまえていたらいけないと直感する。


 だから、まどろむ。


 まどろむ。


 少しだけ、まどろむ。


 ✜ ✜ ✜ ✜ ✜


「起きるんだ、ユイカっ」


 えーと? 眼の前にはアカリさん? でも、なんだか違うみたい?


「アレをしっかりと見ることができるのは、きみだけなんだ。寝起きで悪いけど、乗り移らせてもらうよ」


 なるほど、ノゾ様ね。で? アカリさんからあたしに乗り移れるの?


 これも、お祓いパワーなのかな?


 いじけそうなあたしの背中にスタンガンが打ち込まれる。倒れるほどではないにしろ、この痛みに慣れることはできない。そうだな、臼井ならば慣れるかもしれないけど。


『あたしは、今、端末の中?』

「そうなんだ。たびたび申し訳ない」


 と、いうことは。また、端末の呪いかぁ。最近頻繁だよね。ノゾ様の肩にちょこんと乗っている東原さんが可愛らしい。


 臼井とも集まって、またビリビリきて、それであたしたちはワープすることができた。


 あれ? マチ子さんはどこ? あ。そうだった。すっかり忘れるところだった。


「てめっ、どーすんだよ? こんなことして」


 子供とは思えないほどドスのきいたこわい声。


「うるさい、うるさい、うるさいっ!! あんたたちなんか、みんなみんな死んじゃえばいいんだっ!!」


 ここは、どこかの学校の一部屋。と、言うことは、あたしあのまま眠っちゃっていたんだ。黒髪おさげの女の子が、すごい剣幕で喚き立てている。ちなみにすんごい修羅場。


 この教室のほとんどすべての生徒のスマホやタブレット端末なんかが、黒地に赤の呪いの言葉が刻まれている。


「マジ? なんでおれたちがお前なんかに殺されなきゃなんないわけ? ああ、ひょっとして死神って言ったこと、まだ根に持っていたりする?」


 おさげの女の子は、怒りと羞恥で言葉が出てこない。


「本当にうるさい。もういいや。死んじゃえ」


 おさげの子はおもむろに弓矢を取り出した。キラキラと黄金色に輝くそれは、おそらくこの世界のものではないのだろう。


 それを証拠に、おさげの子が放った矢はボスザルみたいな少年の少し横にズレて壁に刺さった。


「へん。弓なんか撃ったことねぇんだろ? こっちだって正当防衛だ!!」


 いや、この構図を紐解くと、おさげの子をクラスのみんながイジメていて、それで思い切った復讐に踏み切ったと見える。


『真っ直ぐに背を正して。大丈夫よ、怖くなんてないのだから』


 おさげの女の子の背後には、慈愛に満ち溢れた女性がサポートをはじめた。


『嘘……。マチ子さん? どうして!?』


 その瞬間、弓矢はあたしが閉じ込められているタブレット端末へと、真っ直ぐに進んできた。


 つづく

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