第38話
「っ、ごめん。頭痛」
痛みに耐えきれずに口から出た言葉がうらめしい。これでまた、友達になれたかもしれない人が目の前から消えてしまう。
ここにはもう、あたしの居場所なんてないのだから。
「それは大変だ。どうします? お医者さん呼んでもらいます? それとも、休んで治る程度ですか?」
わからない。けど、気圧の頭痛とは少し違う気がする。
「あー、じゃ、そこのベンチで横になってもらってもいいですか? すぐに受付で状態を知らせて、水もらってきますから」
「まっ……」
行かないで、なんてとても言えない。笑えないだけじゃなく、空気も読めない、わがまま、生意気、そんなたくさんの悪意のこもったものをすべてあたしになすりつけたりしないで。
「大丈夫ですよ。心配しないで。 スマホ持ってます? うん、おれの番号打ち込んだから、なにも話さなくてもかまいませんので、もう限界ってなったら、呼んでくださいね」
じゃ、と臼井は廊下をかけてゆく。軽やかな足音。
あーあ。せっかくはじめての旅館で楽しみにしていたのに。どうしてだろう?
そこへ、アカリさんか、ノゾ様のどちらかが、あたしを目ざとく見つけた。
「どうしたんだい?」
「どっち?」
「ノゾ様の方だよ。ああ、もしかして昨日、きみに取り付く時間が長すぎて、後遺症みたいになったのかな?」
ノゾ様なのに、庶民的な香りのアメ玉をどこからか取り出すと、あたしの口に放り込む。
「それも一応薬だから。解熱剤ほど強くはないけど、副作用なんてほとんどないから」
そう言われて、なんとなく目をつぶる。冷や汗が引いてゆく。けど、なんだろう? 目をつぶっているのに、いくつものピクトグラムが頭の中でぐるぐる回っている。
やめて。また気持ちが悪くなってしまうから。
けど、眠い。
寝ちゃおうかな。頭痛、少しマシになったし。
「ユイカさんっ!!」
臼井?
つづく
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