第31話
ベテラン俳優の東原 ダイサク様の孫娘であるアカリさんの登場で、どうしようもなくざわついていた会場がピタリと静かになった。
アカリさんは、喪服をとても上品に着こなし、それでいて黒のピンヒールも似合っていた。
一瞬呆けたように静まった会場が、彼女の登場でさらに大騒ぎになる。あたしにたかれたフラッシュの数なんてものじゃない。
アカリさんこそ、真の女優さんのように見える。
そのアカリさんが、進行役のマチ子さんから強引にマイクを取り上げると、静かにしろよなっ、と怒鳴り散らした。
「こんなに悪意のかたまりに囲まれちまったら、笠原さんが可哀想だ。それに、ダイサクじいさんを殺したのはそこの二人じゃない。犯人はあの
そこまで言うと、アカリさんはマスコミたちを忘れないよう、一人ひとり目で追う。
「あんたらの顔は今覚えたからな。もし、嘘八百並べ立てたら、裁判沙汰にするよ? わたしはねぇ、この二人に感謝してるんだよ。そうだろう? もしかしたら死んじまうかもしれないじいさんに救命行為をしてくれたんだから。むしろ命の恩人だと思ってるよ。それだけさ。じゃ、行こうか?」
へ? と情けない声で小刻みに震えているあたしをアカリさんは立たせてくれた。
「彼女たちの荷物はきちんとわたしの家にでも届けてください。それでは、お開きだよ。尚、葬儀等は家族と親戚だけで行うことに決まっているんで、覗くなよ? 死者の顔に泥を塗ったらどうなるか、わかるよな? そこも考慮した上で、後日きちんとお別れの会を開く。公平を喫するために、参加者全員入場が可能だ。だが、会場に入る前に、一人ずつ警備員に金属反応や危険なものを持っていないか等の確認はさせてもらう。もちろん、カメラは持ち込めないがな」
そしてあわあわしているあたしのもう片方の手をマチ子さんに支えられて、なんとか会場を後にした。
二重になった自動ドアが開くと、アカリさんはあたしを車の後部座席の真ん中に座らせてくれた。
しかもすっごい高級外車なんです。
「もうあれだよね、ごめんね、本当に。こんな騒ぎになるなんて思わなくってさぁ。慌てて助けに来たんだけど、ちょっと手遅れになった。ごめんね」
あたしは、なにか言わなくちゃと思いながらも、ずっと張り詰めていた糸が切れて、涙が止まらない。
「待って」
アカリさんは、黒のお葬式に使うにふさわしいけれど、それもおそらくブランド品なカバンを開けると、ハンカチタオルを貸してくれた。
「ごめん。今は、ハンカチまで黒で統一してるから」
「いえ。いいえっ。あたし、あたし東原様のことを救えなかったのに。ごめんなさいっ」
悔しいのと、悲しいのと、見世物にされた気味の悪さで気の利いた言葉が出てこなくて、ただぼろぼろと涙を流した。
「うん。実はね、アレは単なるマスコミ対策なのよ。ダイサクじいさんは本当は死んでない。ただちょ〜っと悪いモノを吸い込んでしまったせいで、それを取り除くためにかなりちっちゃくなってしまった。だから、笠原さんのせいじゃないよって、もっと早く連絡取りたかったんだけどさぁ。番号知らなかったんだよね」
あ。あの時、いろいろと慌てていて、あたしの番号を渡し損ねていたから。
「とにかく、じいさんは大丈夫。けどまぁ、こんな状態だし? できれば笠原さんたちの秘密基地があるのなら、そこに行きたいかな」
その時ふいにマチ子さんのタブレット端末が光って、ノゾ様の姿が見えた。背景さ、気持ちはわかるけど、どうしてお寺なのよ。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます