第27話
いつもポケットに忍ばせている小柄なスタンガンを取り出す。もちろん、マチ子さんがくれた護身用だ。
「やだなぁ。きっとまたあたしもビリビリしちゃうんだろうな。けどやるっ!!」
延長コードでほぼ雑に縛り上げた男を気絶させるために、あたしは自分のスタンガンを男に目がけて打放った。
ビリビリいうすごい痛みは、男を完全に気絶させることに成功した。
が、あたしはすっかりビリビリ慣れしてきたのか、なんとか立っていられる。
こそへ、マチ子さんが飛び込んできた。
「ユイカさん、病院の電波も電線もやられてしまったみたいです。しかも、窓も外に出る自動ドアさえも開かなくて」
「蹴っても割れなかった?」
よく知らないけど、もしかして結界の中にいるのか?
「はい。それで、とりあえずスタジオ付きのお医者様を呼んできました。先生、どんなお加減でしょうか?」
くっそ。そうするとまだ、コウヘイさんはスタジオ内のどこかにはいるはず。ここはマチ子さんに任せて、あたしは一人でコウヘイさんを探すことにした。
「なんでしょうね? 刃物の傷はたいしたことはないのですが、なぜか、心拍数が少ない。バイタルも危険数値に下がり始めております」
なぜだろう? あたしにもわかりやすいように説明して欲しい。で、なければ。あたしがコウヘイさんを探しに行くしかない。
「マチ子さん、ここは頼んでもいいですか」
「まいったな。いきなり修羅場じゃん」
ピンと張りつめた薄氷のような絶対的な高音に振り向くと、あたしとそうたいして年が違わなそうな女性が、全身をブランド物に包まれて、ピンヒールにふさわしいおみ足の方が、気高く腕組みをして立っている。
「あなたは誰なんですか?」
ちょっと喉がじゃりじゃりして痛い。けど、そんなことをあたしが聞くと、マチ子さんが代わりに答えてくれた。東原様のお孫さんのようです、と小声で教えてくれた。
「さっきからなんか変な奴がウロツイていたから追ってみれば。はん。こいつ、こっちが目的だったんだ?」
よく見ると、お孫さんの手には乱暴にむしり取ったと見られる黒いボアボアの一部が握られている。
「どいて、お医者さん。あと、これから先のことを見たくない人は部屋から出て」
言うが早いか、お医者さんはぶるりと震えて廊下に飛び出す。
「あとは、大丈夫よね? じゃ、いくわ」
お孫さんは、言葉なのかうめき声なのか、それまで話していた声ではなく、あきらかになにかが乗り移ったように呪文のような言葉を紡ぎ出す。
次第に東原様の口から、ゲテモノと称していいような、毛の全く生えていない真っ黒なスライム状のものが、汚泥としか形容できない状態で、滝のように流れ出てゆく。
「まったく。人がいいにも程がすぎるわ。まさか、自分ひとりでここまでの呪いを閉じ込めようとしていただなんて」
東原様は、ガラガラとうがいをするような声で、どんどん黒いスライムを吐き出してゆく。
そして最後にゴホッと黒いかたまりを吐き出すと、お孫さんがピンヒールで踏みつけた。そいつがバラバラに砕け散ってしまうまで。何度も、何度も。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます