第24話
子役の頃から芸能界と関わりを持つあたしだけれど、しょせん芸歴なんて十数年たらず。実績なんてほとんどない。
そんなあたしが大物俳優様の楽屋前に居るだなんて、考えただけで胃が痛くなりそう。
「ですがユイカさん、ここはひと思いに呪いを解除しておきませんと、のちのちあのドラマのような結末になってしまいますよ?」
うー!!
『わかった!! ノゾ様、よろしくお願い致します!!』
ノゾ様はあたしにウインクすると、マチ子さんへと手を伸ばす。そして、マチ子さんから奪い取るように花束を抱えた。
ドアはほんの少しだけ開いていたから、中の喧騒が見えるし、聞こえる。
その声の主は、いつもやせっぽっちで、皆さんに絡まれている不器用なADさん。あんなに優しげな人が、こんな大声を出すなんて。
「コンコン、失礼しまーす!!」
うふっと微笑んだノゾ様に、ADさんは目が釘付けになる。やはり、美少女の笑顔というのは年代問わず虜にしてしまうらしい。
「わたくし、星空 ノゾミと申します。わたくし以前から東原様に憧れております。もしよろしければ、花束を受け取ってくださいませんか?」
ノゾ様の小さい手を叩いた。痛い、と悲鳴を上げるノゾ様の前で、せっかくの花束を踏みにじったのは、東原様ではなく、ADさんの方だった。そんなに? そこまで追いつめられているの?
すると、我に返ったADさんは、無惨に散らされた花束だった物を、ノゾ様に投げつける。
「っせぇ〜んだよ、チビ!! 空気読めよ、出てけよ」
東原様は、スマートフォンを眺めてため息を付いた。
「いゃあ、なにね。楽屋についてすぐ、こんなことになっていて。すみませんのう」
東原様は、マチ子さんに向けて、呪われた端末を見せた。ああ、やっぱり黒い画面に、血文字の呪いの言葉が浮かんでいる。
と、いうことは? あの黒ボアなコウヘイさんも、この近くにいるってこと!? 前の時は上の隅っこにいたけど、今度はどこ!?
『待っていて』
誰っ!? 今、あたしの頭に話しかけたのは誰なの? 今あたし忙しいんだからっ。
「だいたいこのじいさんはよぅ、文句ばっか言ってくんの。お茶がぬるいの熱いのと!! そんならペットボトルのやつを飲めばいいじゃんか。やれ庭が見えないとか、差し入れが気に入らないとかさぁ、こんな弱小スタジオにそんな予算があるわけねぇじゃんっ!!」
違うよ。それはきっと、将来あなたが出世した時に恥をかかせまいとする思いやりなのに。だけどどうしても男同士だと、つっけんどんになってしまう。おまけに東原様は地声が大きいから、怒鳴っているように聞こえてしまったのだろう。
で、それはともかく。コウヘイさんはどこ!?
「あんたを殺さなきゃなぁ、おれが呪われて死ぬんだよ。じいさん、もう先は長くないし、そろそろいいんじゃね?」
ADさんがナイフを取り出した瞬間、マチ子さんが東原様の前で構える。
「あんた。知ってるぜぇ。笠原 ユイカって奴のマネージャーだよな? こんなところで油売ってていいのかよ? だぁーからあんなドブネズミみたいな臼井なんかに手出しされちゃうんじゃねぇの?」
それまで笑みすら浮かべていたマチ子さんの顔つきが変わる。
「邪魔だからどけってんだよぉー!!!」
ADさんのナイフを手刀で叩き、素早い仕草で腹に膝蹴りを食らわす。
「ぐ、がはぁ」
その時、昨日までより小さくなった黒いボアボアしたかたまりが二つ、鋭い刃のようになってテレビに突っ込む。テレビから放電現象を起こし、辺りを包み込んだ。
くっそ。また見失った。ってか、コウヘイさんって分裂するの? なんでこんなにビリビリ攻撃してくるのよぉ!?
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます