記者会見どころじゃない

第23話

 二本撮りの収録を終えたところで、さっきからなんだか、スタッフさんたちが慌ただしく走り回ったりしている。どうしたんだろう?


 しかも、なんかこう、チラッチラとあたしを見てるってことは、臼井の会見がらみだろうか?


 え?


 とか、


 嘘ぉ〜?


 とかいう混乱の場に居合わせたのは、芸歴が長くてもこれがはじめてで。


「はい、二本攝りの収録はここで終わりましたが、ここでビッグでハッピーなお知らせがあります!!」


 司会進行役のアナウンサーさんが、可愛らしい配色の花束をあたしに向けてくる。


 え? 今日で出演終了だったっけ?


「え〜、事情により後手となりましたが、只今人気俳優の臼井 ジロウさんが、我々の女神である笠原 ユイカさんと堂々と交際宣言をしております。ぼくおじさんですけど、彼の口調と勢いとさわやかさはまるで結婚宣言のようにも思われました」


 え〜!?


 という圧力高めの歓声が胸に刺さる。


 違うから。形式的なあれだから。本気じゃないんだよぉ。


 別の意味の恥ずかしさで真っ赤な顔のあたしが、アナウンサーさんから花束を受け取る。盛んに拍手が巻き起こった。


「いやー、アナウンサー長くやってきましたけど、まったくそんな素振りを見せなかったので驚きましたよ!! もう一度、みなさんであたたかい拍手をー!!」


 ああもう。恥ずかしすぎて涙が溢れるあたしへと、マチ子さんが手を伸ばしてハンカチを渡してくれた。


「ああ、なんと。笑わない女神を泣かせてしまいました。ですがどうかみなさん、お二人を優しく見守ろうじゃありませんかっ!!」


 もう一度拍手が巻き起こった。


 おのれぇ、臼井めぇ〜!! あんたのせいでちょろっと大切な存在ですって言ってからうやむやになって、破局報道でおしまい、って思っていたのに。ひどいよぉ。


「大変申し訳ございませんが、こちら、泣いている場面はカットしていただけませんか?」


 マチ子さんはテキパキと監督さんに交渉している。


「なにしろ、笑わない女神で売っておりますので」

「そうですよね、じゃ、番組の最後に花束を渡すところだけ流しますよ。その方がスポンサーもお得でしょうし」

「ありがとうございます」


 マチ子さんの声に、あたしも頭を下げた。


 こうして無事に、収録を終えて楽屋に向かうところだった。


「ユイカさん、涙は大丈夫ですか?」

「ああもうすっかり。でもこういうのって、案外恥ずかしいものですね」

「ですが、一応先手を打っておかないと、うっかり週刊誌にすっぱ抜かれたりしたら面倒なことになりますしね」


 うんうん、と頷いたところでマチ子さんが足を止めた。


「どうしたの?」


 マチ子さんはそれに答えずに、カバンからタブレット端末を取り出した。


「ユイカさん、ごめんなさい」


 マチ子さんは、素早くスタンガンをあたしに押し付けた。


 くっそう。また呪いかぁ。


「楽しんでいるところ、悪いなユイカ」

『楽しんでなんていません!!』


 端末に乗り移ったあたしは、四方を見回し、この建物のどこかで呪いの端末があることを本能的に悟った。


 でも、ここじゃない。


『ノゾ様、場所は?』


 端末にピコーンと音がして、位置を特定する。


「ここね」

「ですがノゾ様、そこは大物役者様の楽屋でございますよ?」


 それって、どういうことー!?


 つづく

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