第20話
じゃあまた、と内藤さんに手を振って、朝食は無事にすませることができた。
そういえば昨日はドラマの後、ここへ連れらて来られて、ケーキしか食べていなかったんだよな。
「内藤さんとも電波? 超能力? そんなのでつながっているの?」
あ。マチ子さんがあのドラマの最終回を教えてくれていたのだった。曰く、超能力的ななにか、と言っていたっけ?
『うむ。ここでの話もちゃんとダダ漏れだから、遠慮することはない。あと、状況によってマチ子か内藤に乗り移ることもできるが、そう長い時間は無理なのだよ』
辞めて辞めてー!! マチ子さんたちをドッカーンさせないためにも、あたしがもっとしっかりしなくちゃな。
「それでは、本日の行事です」
いつの間にか、メガネをかけたいつものマチ子さんに戻っているから、ちょっと体が緊張してこわばった。
「えーと。本日はまず臼井さんの記者会見のため、スタジオを移動してもらいます」
「ああ、あれっすよね? ユイカさんと結婚を前提にした交際宣言」
ぐはっ。やっぱりその設定は活かしたままなのか。
「同時刻、ユイカさんは以前からレギュラー出演していらっしゃるお笑い番組に出演していただきます」
笑わない人形を笑わせる会、みたいなお遊び配信に招かれてから、なんだかあたしの素の顔が面白いらしく、ついに配信のみだったこの番組がテレビ収録にまでこじつけた。スタッフさんには、無理する必要ないし、笑わなくていいと言われている。できれば、面白くても笑わないでくれると尚助かります、なんて言われてしまったら、期待に答えるしかないじゃない。
「おそらく、その収録後に、臼井さんの発言を受けての記者会見が開かれる模様です。ユイカさんはきちんと、臼井さんはとても大切な存在です、と一言おっしゃってください。後ほど、こちらからマスコミに向けてのわざとらしく盛った原稿を配布いたしますので」
臼井はふすんと鼻息を荒くした。
「芝居だからねっ。本気じゃないんだから」
「わかっていますよ、ユイカさん。ああ、長年の夢がついに本当になるなんて……。おっと、ちゃんとお芝居しますよ」
あたしの睨みで臼井は顔色を変えた。
「けど、臼井はそれでいいの?」
「なにがですか?」
とぼけた様子で聞き返してきたから、も少し強めに釘を打っておく。
「臼井の本命の彼女とか、遊びの彼女とか。あたし、嫉妬されるのは構わないけど、刺されたりするのは本当に嫌なんだよね。痛いし、傷が残るし」
そんなもの、初めからいませんよ。と、臼井はなにげに瞼を伏せた。
「おれが大好きで、本心から恋人になって欲しい人は、ユイカさんただ一人だけですから。他の女性で紛らわすことなんてこともしていませんし。そこいら辺は、おれを信じて欲しいかな?」
そう。とだけ答えて、顔が暑くなるのをごまかすように仕事の支度をした。
つづく
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