第17話
湯船から出た瞬間、薔薇の匂いがしたような気がした。こんなの、ただの入浴剤の匂いだよね。
きっと、いろんなことがいっぺんにありすぎて、自分でもわけがわからなくなっているに違いないんだ。
あ。そういえば、マネージャーのマチ子さん、どうしたんだろう? 突然のことで、ちゃんと挨拶もできなかったな。
着替えに戻ると、バスローブの隣にちゃんとした服が一緒に用意されていた。そして、あたしが脱ぎ散らかした服や下着なんかはまとめてクリーニングに出しました、と、これまた丁寧な文字がつづられている。
……うん? この字は見覚えがある。いや、でもなぁ。今の時間は明け方の五時半かぁ。さすがに二度寝する気はないから、せっかく用意してくれた服に袖を通す。
それにしても。よくあたし好みの服がわかったな? そんなことより下着だよ。なんパターンか用意されているんだけど、全部際どいやつばっかりなんだけど。これも臼井の好みなのかなぁ? っていうか、あいつ、あたしの着ていた下着も持っていったってこと!?
許せんっ!!
「ちょっと、臼井〜!!」
歯ぎしりをしながら臼井を呼んだら、開口一番、ごめんなさいと頭を下げられた。
「ユイカさん、先程は失礼いたしました。なにしろ、あんなことがあった後だけに、過敏に心配していました」
「そうですわよ、ユイカさん。こちらの会社にわたくしも一緒にスカウトまでしてくださった臼井さんには、感謝の気持ちで一杯です!!」
……うん?
「マチ子さん、どうしてここに?」
しかもなんか、いつもより垢抜けたスーツを着ている。
「ですから、わたくしもこちらの会社にスカウトされまして。これからもユイカさんのマネージャーとして、働かせてもらいます!!」
うん。珍しく、元気一杯なマチ子さんが、朝食にいたしましょうか? とあたしを座らせる。
「え〜と? じゃあ、薔薇の香りの入浴剤入れてくれたのはマチ子さん?」
「薔薇ですか? いいえ。でも、もしかしたらバスルームの上部に付いている、芳香剤の香りではありませんか?」
そうなの? そうなの、かなぁ?
「じゃあ、あたしに着替えを置いて、クリーニングに出したのは誰
?」
「失礼ながら。わたくしでございます。お気に召されましたか?」
最後は小声で耳元に囁かれた。
それは多分、攻めすぎた下着のことだと思われ。
「あのー、下着はどうしてあんな?」
「あら? お気に召しませんでしたか? わたくし、ユイカさんが臼井さんとお付き合いされているとお聞きして、それはそれは麗しいデザインを選んだつもりなのですが」
あちゃー。変な風に誤解させちゃったよ。てか、下着までクリーニングに出さなくても、自分で洗うのにぃ。
『ふぁ〜あ。よく寝た』
ノゾ様ののんきな声が響いて、臼井のタブレットに現れた。
「あら? お可愛らしい。お久しぶりでございます、ノゾ様」
え? 二人、知り合いだったの? いつからよ。
『まぁ、ぼくにも彼女にも色々とあってね。そこいら辺はまだ言えないけど、とにかく、彼女も仲間だから。そして、こう見えても彼女は格闘が得意なんだよ』
はい? マチ子さんが格闘!? いつもおっとり優しいのに?
つづく
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