第14話

 こうしてあたしは必死に状況を理解しようと努力したり、全力で怒鳴ったりなんかして、すっかりソファに手足を放り出して、口と瞼を開けたまま、端末の中でふやふやと泥のように眠っていた。


 ふいに、誰かに呼ばれたように感じて、目を開ける。


 そしたらなに!? 臼井がだらしなくバスローブ姿なのは放っておくとして。それはもう見ないことに決めて。


 なのに、だったらどうしてノゾ様も、ドレスの上からバスローブをかけているのかしら、って頭の中が大混乱。


 ちょぉー臼井。あんたがまともじゃないんだなってことはなんとなく知っていたけど、ロリコンはヤバいんじゃないの?


 目をギラつかせるあたしを前に、ノゾ様はプロボクサーのようにバスローブを脱ぎ捨てた。


「臼井も早く着替えて。ユイカ、初めての仕事だよ?」


 ……仕事ぉ? 二人でやればいいじゃん。あたしの体に乗り移っているんだからさぁ。それになんだかあたしがいたらお邪魔じゃない?


「そう腐らないでください、ユイカさん。おれはたまたま疲れてシャワーから出てそのまま眠ってしまいましたが、途中で目が覚めたらノゾ様が寒そうに作業していたから、バスローブをかけてあげたっていうだけなんです」


 それはそれでいい。逮捕されるんなら、しおらしく見送ってあげようじゃない。


 じゃあなくて。あたしも付いて行くとは聞いてなかった。あたしは自前のスタンガンしか持ってないし、ノゾ様の華奢な体で戦えるとも思えないし、案外筋肉質だった臼井に丸投げすればいいのに。


「悪いんだけど、ここで話している時間も惜しいんだ。この戦いは、ぼくにとっても初めてのことだから、なにがどうなるかも予想がつかない。臼井を凌ぐほどのプログラミングができるきみにだけは、アレが見えるかもしれない。そしてもし、失敗してしまったら、その時は……わかるよね?」


 あのドラマとおなじ末路を迎えると?


『ねぇ、片方を殺したら、もう片方が生き残れるってことでいいのかな?』


 もし、目の前で残酷な殺戮が広げられたら。正直、発狂しかねない。


「きっとそうなるだろうし、彼らにかけられた呪いを解く方法とタイミングを間違えてしまったら、その場の全員が死ぬかもしれない」


 ああ、なんておぞましい呪いなんだろう。

 

『それで? あたしはなにをすればいいの?』

「おそらく、ソレを見えるのはきみしかいない。だから、タブレットの中なのにすまないが、ソレを見つけて、どの辺にいるのかを教えて欲しい」


 でも。どんな形状なのかもわからないし。


「それと、重要事項。ワープすると電波酔いする者がいるから、そこは気をつけて欲しい」


 電波酔い。そんなぁ。おっかないよう。あたし、タブレットの中だから反撃できないじゃん。


 なんてグジグジ文句を言っている間にワープがきたっ!! って喜んだ瞬間、体にものすごい圧力を感じて目を閉じた。これは、ヤバい気がする。


 目を開けた瞬間、あたしはしっかりとワープ酔いしてしまっていた。


 車酔いもしたことないのにぃ。


 つづく

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