第13話
結局、中途半端ながら引き受けてしまったのだからと高をくくって、色々な話し合いをしている。
たとえば、スタンガンの出力をできるだけ下げてもらえるように頼んでみたり。
あたしが自分の体に戻るためには、ノゾ様が眠るか気絶するか、あるいはノゾ様の意思とか。そこいら辺をじっくり聞いていたのだ。
あたしが多少の我慢すればいいことなんだけど、乗り移られるたびにあんな痛みを受け入れなければならないなんて。それってあたしが不憫すぎません?
こんなに痛いものだと知っていたら、マチ子さんお手生のあたし用のスタンガンなんて持ち歩くのが怖くなってきちゃう。
だってほら、あたし一応子役あがりじゃない? そうすると、子供の頃から応援していてくれた人に突然襲われたりとか、さらわれたりしちゃうかもしれないから、持っていてください、とマチ子さんに渡されたのだった。事実として、たった数回だけどそれと似たようなことがあったし、いつまでも子供のままでいてくれ、だなんて無理難題を押し付ける謎多きおっちゃんとも遭遇した。その時は、スタンガンが大いに役に立ったんだけども。
「ちなみに、みきが暇を持て余している時には、ぼくが作ったゲームで遊んでいてもいいし、ネットニュースを読んだりしても全然構わないから」
いや、別にゲームとか好きじゃないし。
「もちろんユイカさんは、ゲームなんかよりおれのことが好きですよね?」
『どの口が言うか!? この残念イケメンめっ』
ちなみにぃ、とノゾ様がもったいつけるようにニヤリと笑った。
「ぼくがきみに乗り移っている時、あるいはきみの中にぼくが乗り移っている時の声は、ぼくたちだけにしか聞こえないから。そこはよく気をつけて発言してくれたまえよ」
おそらく最新のスマート時計を丁寧に机の上に置いた臼井は、これまた最新のタブレット端末をそれはそれは楽しそうに見つめている。
「おおー。さすがおれ。もう拡散されてます。すごいですよ、ユイカさん。おれたちもう、世間の皆様からしたら、すっかり恋人同士になってますよ」
『なに言ってんだよ、ああ〜ん?』
そして臼井はなんのためらいもなくタブレット端末とスマート時計をリンクさせた。
おお!! あたしがタブレット端末の中にいるっ!!
「そうだ。きみは端末という端末に乗り移ることができるけど、うっかり変なウィルスに感染されると困るから、それも気をつけてくれたまえよ」
待て待て待て待てぃ!!!
『なんじゃ!? ごりぁあ〜!?』
芸能ニュースの最新ランキングで一位になっていたのは、あたしを車からエスコートしている臼井の姿だ。もちろん、現在地も車も完全に塗り替えられているが、その記事のタイトルがこうよ。人気俳優の臼井 ジロウ、元子役の女性とお忍びデート!? となっている。
『なに!? なんなの、コレ!!』
「ああ、聞かれてませんでしたから、適当に合成を作成してしまいました。だって、これから一緒に行動するのだから、この方が手っ取り早くはないですか?」
『そうじゃない!! あんたいつから人気俳優なんて呼ばれてるのさ!? つい最近ぽっと出の若造のクセして。それで、なんであたしが元子役なんだ!? 今だって現役バリバリの俳優だっつーのっ!!』
タブレット端末から零れ落ちそうな剣幕のあたしに、さすがの勘違い野郎、臼井はすんません、と頭を下げた。
「最初が大事なんですって。これらのほとんどがノゾ様の書いた脚本通りなんです。おれのせいじゃありませんから」
珍しくそっぽを向いてすねた表情を浮かべている。
「それはそうとして。ユイカは本日付を持って、これまて在席していたタレント事務所に辞表を出しておいた」
『はぁ!? なんでそんな勝手なことをするのよぅ!!』
ここにはプライバシーはないのかっ。
「心配せずとも、後日臼井がいる会社に移籍することも決まっているし。だったら最初からそのようににおわせておけば、双方のファンもあきらめてくれるだろうし?」
燃え尽きたぜ。真っ暗な落とし穴に落とされたような気分だ。
普通、そこまでやるかよ。
「そうそう。きみが端末の中で空腹や病気になったりしたら、すぐに薬をあげて緩和するから、心配しないでくれたまえ」
『聞けぇ〜いっ!! あたしの話を聞けぇ!!』
ズレてる。この二人、やっぱりなんか変なんだよな。こんなんでやっていけるのか、あたし!? これじゃ、戦う前より先に、あたしの神経がすり減ってしまいそうだよ。
つづく
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