憑依? なんてもんじゃない
第12話
うあ。まだ体が痺れてる。痛いなぁ、もう。出力最大だなんて、たまたまあたしが耐えられたから良かったものの。まったく。
そこでふと、自分の体に違和感を感じた。
長いツインテールの赤い髪。子供特有のふんわりとしたあたたかい手の感触。たくさんのフリルがついた、可愛いドレス。それに白タイツにあわせた水色のブーツ。
……はて? あたし最近、こんな服装の女の子を見たことがあるような気がする。
「やったぞ!! ユイカに乗り移ることができた!!」
げ。あたしの声じゃない。ふっとテレビの画面を見れば真っ白なままの画面に、ほんの小さくあたし? と思われるアイコンがある。
そして、あたしの意志じゃないのに、勝手にケーキを食べまくっているのはノゾ様。やめてよもう。適正体重をキープするの、すっごく大変なんだから。
『あのぉ? 今、なにが起きたのか、教えてもらえません?』
ぐぁ、自分の声がなぜか脳に響く。
「うん? 成功したのだよ。電気が流れて、その瞬間に乗り移ればいいって言うのが、臼井のアイデアだった。いやぁ、臼井の考えたことだからね。鵜呑みにしたわけじゃなかったんだけど、ついに平面から立体に成功したよ。それにしてもこんなに美味しいものがあるなんて、まるで信じられないや!!」
『話が断線していませんか? 間違ってないよ。あえて断線と言う言葉を選びました。それで? あたしの体はどこに? まさか、テレビの小さなアイコンじゃないよねぇ?』
「大丈夫ですよ。テレビのアイコンはおれが作っておいたものです。そして、本物のユイカさんは、誰かに見つからないよう、ちゃんとこのおれが管理してますから」
画面が臼井のドアップになった。しかもかなりドヤってやがる。
『はぁ? なによ、コレ!?』
「なにって、ユイカさんの魂は今、おれの腕時計の中にきちんと隠してあります。状態によっては、おれかノゾ様のどちらかの視点に切り替えもできます。それにしてもこんなにあっさり成功するとは思いませんでした!! ありがとうございます、ユイカさん」
『ちょっと待て。あたし、まだやるとは答えてないよね?』
「けど、人生をもっといろんな角度から楽しみたくないかい? それに、ゲームで勝利したからといって、適当にきみを選んだわけじゃない。わかってくれるよね?」
わからないでもないけど。他の人にはノゾ様の情報量の多さで大変なことになるんだってことくらいなら。
できることなら、こんな面倒くさいことに関わりたくないし、あたしに何ができるのかすらもわからない。
ただ、ずっと電波の波形の中で過ごしていたノゾ様が、年相応の可愛らしい笑顔でケーキを頬張っているから、なんとなくそれでもいいか、なんて思ってしまうんだ。
『ま、いっか』
たったそれだけの理由で、受け入れることに決めた。
つづく
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