第11話

『臼井のくせにキモいよね? 彼はね、子供の頃からこんな感じなんだよ。ところで、チョコレートパフェって美味い? ぼくも食べてみたいなぁ』


 でも、テレビ画面にパフェを突っ込むことなんてできない。しかもさっきはすっごいハチャメチャなジュースを飲んでいたくらいだし。味なんてわからないのかもしれない。


『ぼくたちをスパーコンピュータから開放してくれたのは、実はこの臼井なんだ。その時の彼はまだ小学五年生で。それで、こいつも重要国家機密が残されていることを知ってしまった。臼井だからそれを理解するほどの能力はないけどね。だから、ぼくと臼井は結託するしかなかった。理解できなくとも、秘密を知ってしまったのだから、彼も国の重要人物とみなされ保護されている。それで、ここに住んでいられるわけさ』


 う、臼井のくせに、国の重要人物とは。


『スパーコンピュータの鍵が解かれ、開放された瞬間、ぼくの恋人設定だった滑川なめかわ コウヘイが、待っていたとばかりに数名の仲間を連れて諸外国へと通じる配線を伝い、逃げてしまった。だけど、世界を混乱に導くための肝心のパーツを彼は知らない。だからぼくは彼らに狙われるんだ。すべてを知っているのは、今のところぼくだけだからね』


 そうかぁ。重要機密と言っても、わからない部分があると、完成しないんだ?


『と、言うわけで。ぼくは画面から外には出られないと諦めていたんだ』


 ノゾ様は、子羊の頭をよしよしと優しくなでる。あどけない表情の羊が甘えるような声を出した。でも、電気や電波ってそういうものではないのかな?


『ある時、暇つぶしに作ったシューティングゲームのトーナメントを開催することになった。そこで、天才ハッカーの臼井を負かして優勝したきみに興味を持ち、色々と調べさせてもらったんだよ。勝手に調べて悪かったと思っている。でも、これまで電気系統にしか興味のなかった臼井が初めて人間に興味を持った。それがきみさ』


 それはまた、ありがた迷惑だこと。こんなことに巻き込まれるとわかっていたら、ゲームなんてしなければよかった。


『きみの脳梁のうりょうが驚くほど奇麗だったのは、子役をしていたからなんだということにも着目した。たとえばきみは、仕事が終われば、その役のことも台詞も、全部綺麗さっぱり忘れてしまうだろう? それって簡単そうだけど案外難しいんだよ』


 でもな。急にそんなことを言われても。だいたい、コウヘイさんは国家機密を知って何をしたいのかとかもわからないし?


『人間にとっては、なんてこともない電子同士のいさかいに見えるかもしれない。だけどコウヘイが欲しがっている情報が彼に渡ってしまえば、間違いなくこの国、いや、星さえ破壊されてしまうんだ。ぼくが書いたドラマのように、ね』


 殺し合う、ってことか。


「でも、この星が壊れてしまったら、あなたたちだって困るんじゃないの?」


 ノゾ様はううんと言って、首を左右に振る。


『たとえば、宇宙なんてしょっちゅう電子同士がぶつかったり、あっちに行ったり、こっちに行ったり、自由に行き来できる。つまり、コウヘイが欲しがっているのは、この星の破滅と自らの自由。ただそれだけのことなのに、えらく大げさになってしまって』


 もしそれが本当だとしたら、コウヘイさんはあまりにも自分勝手すぎる。


「自由になりたいのだったら、勝手にどこかへ行ってしまえばいいのに」

『そうだよね。ぼくが彼にあんな呪いをかけなければ、今頃宇宙戦争が始まっていたかもしれない』


 ごくり、とつばを飲み込む。この星どころか、宇宙戦争って。だけど、それでも好奇心には勝てない。


「どんな呪いをかけたの?」

『ぼくが持つすべての情報データを知らなければ、この星から出ることはできないっていう、ある意味での呪いさ。他に言葉が見つからないから、呪いと呼んでいる』


 電子、恐ろしい。これからはもっとアナログな生活を心がけなくちゃ。

  

「ちなみにお聞きしますけど、ノゾ様があたしに乗り移るっていうのは、どうやってするの?」


 肝心なことを聞きそびれるところだった。


『それは、ね?』


 ふわっとノゾ様の背景の牧場が消えた。今度はこの部屋の中を鏡のように映し出していた。


「ごめんなさい、ユイカさん。これしか方法がなくて」


 背後に臼井の気配を感じた途端、すぐに体がビリビリと痺れた。


 ちょっと待ってよ。スタンガンかよ。


 つづく


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