第12話 東京埋没

 たった一日、東京を東へ行ったり西へ行ったりしたけど、東京にも色々な顔があるし、色々な人がいるのは面白い。面白いけど、僕はあっという間にその人の群れの中に埋没して、何者でもない人間になるのは間違いない。でもそれが嫌なわけじゃなくて、僕はどちらかといえば、何者でもない人間でいたい。そうなるには東京は最適だと、実感しました。

 東京、都心で生活している人は、自分のことをどう解釈しているんだろう。あんなに大勢の人がいて、自分がその中でどういう役割があり、何をしているのか、確信が持てるのだろうか。こんな変なことを考えるあたりが僕がちょっと考えすぎる人間のような気もしますが、地方における自意識と、都会における自意識は違う気がする。

 それは、家庭を持つことや、仕事に打ち込むこと、趣味に走ること、そう言った生活の部分的な要素が持つ価値が、都会と地方ではまるで違う、ということなのでは。それは夢を見ることや、未来に期待することにさえも影響するし、人間の意識自体に隔たりがある、と言えるのでは。

 都会において自分を表現することと、地方において自分を表現することとにはズレがある。表現手法も違うし、表現の場も違ってしまう。どちらが正しいのか、というのは意味のない議論で、どちらが性に合うか、というのが重要ではないかな、と思ったりした。僕はどちらかといえば、都会にいたい。何者でもない人間のまま、雑踏の中に埋もれていたい。

 東京とは、ある種の渦であり、人間が自然と埋没していく場である、というようなことが今回の旅行の各場面、秋葉原の人混み、入谷の昼間の通り、神保町の喧騒、新宿の夜の光景を見て、ふと頭に浮かんだ。

 東京が好きな人もいれば、嫌いな人もいる。

 僕は東京が好きだな、と改めて思った。

 理想郷である東京。

 あるいは、天外魔境である東京が僕は好きです。

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東京埋没 あるいは理想郷の功罪 和泉茉樹 @idumimaki

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