第5話 将棋が好きな子どもが怖い

 千駄ヶ谷では将棋会館にしか用事はなかったのですが、駅を出るとすごい人。駅前の体育館か何かでライブイベントがあるらしく、看板を見ると、ももいろクローバーZだった。面白かったのは、駅のそばの日高屋とかサブウェイに行列ができていることで、時間帯は夕方でしたが、みんなお腹が空いていたのかな。

 さて、将棋会館の場所はわかりづらいかと覚悟したけど、そんなことはなかった。入ってみると一階は売店なんですが、超高額の駒が並んでいて、目玉が飛び出そう。

 それはさておき、売店を見ているうちに子供連れの家族が何組も来る。もちろん売店が目当てではなく、二階の道場が目当てです。で、僕も恐る恐る階段を上ってみたけど、人の流れが滞っていて、時間もないし、今回はいいか、などと自分に言い訳して逃げましたが、正直なところ、小学生くらいの子どもに手玉に取られる自分が想像できて、怖かったです。

 僕の育った地域には将棋道場なんてないし、そもそも地元からプロ棋士が出たこともおそらくないと思われる。いや、プロ棋士自体が少ないので、地元からプロ棋士を輩出する方が稀なのかな。ともかく、僕は赤の他人と将棋でぶつかり合った経験がない。同級生とかとはやったけど、ものすごく年の離れた大人と指したことはないし、逆に大人になって子どもと指したことはない。将棋会館の二階に通うような子どもは、きっと海千山千の大人に揉みに揉まれていそうで、どうにも僕には怖すぎる。そして僕自身が弱すぎる。

 それにしても、駅前のアイドル現場の熱気と、将棋会館の不思議な静かさは、ものすごく対照的で不思議だった。これは東京の他の場所でも感じることですが、あまりにも大勢が集まるせいか、至近距離でも様々な人が、それぞれの空気のまま存在するように見える。つまり、「空気を読む」的なものが、ミクロでは存在するんだろうけど、マクロでは存在しない。地方だと下手な目立ち方はできない、許されないような空気があります。例を挙げると、都会だとロリータ服はある程度許容されるというか、そんな服装の人が道を歩いていてもチラッと視線を向けるだけで済むように思われるけど、田舎だと凝視されてしまう。僕はどちらかといえば、都会の無関心さの方が心地いいですね。いや、絶対にその方がいい、と言ってもいいか。

 いつか将棋会館の二階に堂々と入れるように、また将棋を勉強しようかな。

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