箪笥裏

八月一日

飛行

地面すれすれを飛ぶ夢を、よく見る。



突然映像が途切れ、双眸へ現実がなだれ込んでくる。しばし享受したあと、先の飛行を思い出すように何度か瞼を閉じてみるも、無駄だった。所詮は人間。肉塊如きが飛べるはずがないのだ。



喉が引っ付いているような感覚があり、手元にあった2リットルペットボトルからごくごくと水を飲んだ。いくら喉を上下させても、渇きは癒えなかった。マイナスがゼロになる程度。もういい。空のそれを床に投げ出した。窓と目が合う。



カラカラ……と音を立て、景色が広がる。向こうは赤かった。



這いずるように朝焼けへと近づいていく。壁にしがみついて立ち上がると、そこは2階であった。植木鉢を蹴散らすと、陶器の割れた音と引き換えに、お立ち台が現れた。



踏み出す。左足は空を切り、頭から地球に吸い込まれていく。このまま1つになれるだろうか。



体が浮く感覚。目を開くと、地面すれすれであった。まるでマントルから嫌われたかのように、はたまた宇宙に愛されたかのように、浮き上がる感覚がそれに続いた。



このままそらをとべるかな。そんなことを思っていたら、地に叩きつけられた。



人間風情が、飛べるはずがない。

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箪笥裏 八月一日 @hitotose_t

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