Ⅹ
「…少年は少女のことが好きだった。だからこそ守りたいと思った。
自身を犠牲にしても、生きていて欲しい、と願った。
だがその想いは少女も、同じだった。
少年を庇い、宇宙人に刺し貫かれた少女は、死に際に少年にこう、言ったんだ。
『私が死ぬことで、君が苦しむことになるのはわかってる。
残された者の痛みがどれほど痛いのか知ってる。
…でも、それでも。
たとえどれだけ苦しんだとしても。
君には、生きていて欲しい』
そうして少女が死して間もなく、戦いは終わった。
少年は少女の望み通り、生き残ったんだ。
だが、少年は生きてはいなかった。
人の目を盗んで何度も死のうとした。
けど、出来なかった。
あの言葉が呪いになっていたんだ。
その呪いは、永遠に少年を苦しめる。
そうして少年は、死ぬことも出来ず、かといって生きることも出来ず、
死にたがりのまま、屋上に立っていたんだ」
「…それが、君なんだね」
ようやく、長い話が終わる。
終わってみると、何ともくだらない話だ。
俺と彼女は互いに独りよがりの罰を受けた。ただそれだけだ。
「ひとつ…聞いてもいいか?」
「なあに?」
…コイツの先は長くない。ならコイツのことを知っても意味が無い。
だけどこっちだって長々と話したんだ。向こうの事を知る権利はある。
「…どうして記憶を失っても、お前はお前でいられるんだ」
自分というものを確かめられない。例え他人の記憶を見れたとて、主体が無ければ意味が無い。だというのに、どうして。
「なんだ、そんなこと。
記憶が無くっても、アタシはアタシ。
言ったでしょう?魂がアタシ自身を覚えているって。
記憶が無いから、出会うもの全てに素直でいられる。ありのままでいられるんだ」
「…やっぱり強いんだな、お前は」
それは誰にだってできることではない。
俺には……出来ない。だって俺には…
「それに、アタシがアタシを忘れても、誰かがアタシを覚えていてくれてる。それに気づいたの」
そう言ってこちらに指を向ける。
「…それって俺のことか?」
「もちろん」
そう言って笑う。力は無いが、芯のあるいい笑顔だ。
「あ~あ、誰かさんの長話を聞いてたら眠くなってきちゃった。アタシ、もう寝るね」
と、
体をベッドに倒し眠そうに言う。
「……眠ったらまた記憶は無くなるのか」
「うん。でも全然不安じゃないよ。
また起きたらキミがアタシのこと、教えてくれるでしょ?」
「ああ。もちろんだ」
力強く頷く。
「良かった…じゃあ、おやすみ。また…あした…」
そう言って、静かに眠り始めた。
本当に幸せそうに。
深く深く眠っている。
「ああ……また、アシタ」
俺は起こさないように静かにベッドの傍から離れ、病室を後にした。
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