「や、やめてくれ!俺達仲間だろ!?同じ人間だろう!?敵を見誤るなよ敵はアイツra」

五月蠅い。

その無様な声は奴らを呼び寄せる。

その無様な力は奴らを殺せない。

なら、どうしてこれはここにいる?

…………

「…大丈夫?」

 彼女が駆け寄ってくる。手には水の入ったペットボトル。俺はありがたく一飲みに飲み干す。

「ありがとう。でもこの程度なら大丈夫さ。まだお前の顔もしっかり見えてる。」

そう言って眼鏡をはずして見せる。

 この眼鏡は元々彼女の兄の物だったらしい。

俺が代償として視力を失い始めてから彼女が譲ってくれた。

ほんと、彼女の気遣いには感謝してもしきれない。

「そう…本当に大丈夫なのね?」

「ああ、お前が心配する事じゃない」

「なら…いいの」

 でもいつからだろう。

彼女が目を合わせてくれなくなったのは。

彼女が生きている。その事実だけで俺は満足だ。満足の、はずなのに。

…少し、寂しい。

 だが、斯様な感傷に浸っている場合では無い。奴らはまだこの惑星に残っている。コロしつくさねば、根絶やしにしなければ。

そう言い聞かせて眼鏡を掛けなおす。

 彼女はどこだろう。

辺りを見回すが見当たらない。

 不安がどっと押し寄せる。まだ遠くには行っていない。逸る心を押さえつける。

辺りを隈なく見渡す。

 ダメだ、良く見えない。辺り一面滲んだ水彩画の様。

メガネだ。メガネをかけなければ。

そう思いポケットを探す。無い。メガネが無い。

いや、あった。眼鏡ならずっとあった。

しっかりと掛かっていた。

「………….!」

 気付いていなかった。否、気付いていた。ここまで力を急激に使い過ぎた、と。

このままじゃだめ。コノママジャダメ。

このままじゃ力を使えない。

このままじゃ彼女を守れない。

 …焦るな、冷静になれ。

俺はこれまで生き抜いてきた。守り抜いてきた。だから、今回だってきっと。

「っ!」

ずるッ、と滑り転ぶ。

ここ数日間で山道は慣れたとばかり思っていたが少し気を緩めたとたんにこれだ。

「!大丈夫?……!?」

彼女の声が聞こえる。

 ああ、良かった。

彼女がいる、と認識しただけで急に心が軽くなる。

…何だろう。何かとても驚いたかのような声だった。

そんなに酷い怪我でもしているのだろうか。何にせよここからじゃよく見えない。

メガネをかけることももどかしい一刻も早く彼女を視界に収めたい。


ぐちゃり


 俺は耳までおかしくなったのか。

不思議な—――

—――聞きなれた

オトがした。


 アカイエキタイ

これは、奴らの血?

違う奴らの血は赤くはない。

よくよく見慣れたニンゲンの血。

ニンゲンノチ

これは、誰某の血?

決まっている。

これは俺の血。血が流れるのは俺だけ。よって俺の血。


 ここで疑問が残る。                       

ノコラナイ

果たして自分の血は、上から落ちてくるモノなのだろうか。


 「………………….な……………ん……..……で………….」

答えは単純明快。

流れているのは彼女の血。

彼女は俺に覆いかぶさるようにして、

奴らに胴体を貫かれていた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」

彼女は体を刺し貫かれたままでありながら、ぎこちない笑顔を作り、こう言った。

 ご め ん ね

 


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