暗い森の中を俺たちは走っていた。

何のために?勿論逃げるためだ。

ついさっき、俺たちは“奴ら”の襲撃を受けた。

それはもう完膚なきまでの不意打ちだった。

今まで“あいつ”のお陰で不意打ちなんかとは無縁だった俺たちには相当な痛手になった。

 七名の負傷、そして三名の死亡。

統制なんてとれるはずも無く、俺たちは散り散りになって逃げている。

惨めに、無様に、走っている。

 「クソッ!どうして急にいなくなったりするんだ委員長!この、役立たずのリーダーめ!」

何処からか誰かの声が聞こえる。

 無理もない。あんなことが無ければ俺だってそうしていたかもしれない。

 だがそれは出来ない。

目の前で親友に死なれてどうなるかなんて、あいつに分からなかった訳が無い。

リーダーを失ってどうなるかなんて、あいつに分からなかった訳が無い。

それでも、あいつは選んだんだ。

俺に責める権利なんて……無い。

 「クソがクソがクソが!どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ!こんな目に…あああ゛!やめ…じにだぐな」

聞き覚えのある悲鳴が森に響く。

 また一人、人が死んだ。

善人も悪人も、性悪も聖人も、関係なしに死んでいく。

それが現実、これが現実。

否応なしに放り込まれた、辞退不可能なRPG。

 「大丈夫?顔色悪いよ?」

ふと、彼女が顔を覗かせている。

気が付けば、彼女は俺より幾ばくか先行していた。

「……大丈夫だ。何ともない。

それよりお前こそあまり前に出るなよ。お前の能力は戦闘向きじゃないんだから」

そう答えると彼女は少し不機嫌そうな顔をした。

「もう!絶対無理してる!

私の心配なんてしなくても良いから自分の心配をしてよ!」

「女の前で無理をするのが男という生き物だ。だからお前は安心して俺に守られてれば…っ」

足元が覚束なくなって眼鏡を落とす。

彼女は少し足を止めて拾ってくれた。

「……悪い」

眼鏡を掛けなおす。

…この眼鏡も今やすっかり俺に合っている。

「ほら、無理してる」

「なんでお前がしたり顔なんだよ」

「…昨日、君が委員長と何があったのか知らないけど、抱え込みすぎるのは体に毒だよ」

全く、全部お見通しってわけか。

「お前には助けられてばかりだな」

「そんなことないよ。私こそ助けられてばっかりだし、お互い様」

そう言って彼女はにかむ。

つられて俺も笑ってしまった。

 いつもそうだ。彼女は人を笑顔にする。

自分の能力が戦闘向きで無いことを知った時も、すぐに自分が出来ることを探していた。

周りが落ち込んでいる時も常に動き回っていた。

「それが私の出来ること。これくらいしか出来ないけど、出来るのにしないのは嫌だから」

「うわぁっ!お前、遂にテレパシーでも手に入れたのか!?」

「難しい顔してたから驚かせようと思って」

「お前今がどういう状況かわかって…….はあ」

 でも、そうなのだ。

そんな彼女だから救われる、そんな彼女だから守りたくなる、そんな彼女だから好きになる。

「でもでも、君がそんなに私のことを考えててくれるなんて~」

「う、うるさいな!さっさと行くぞ!」

彼女の視線に耐え切れず顔を背ける。

 体は熱くて思考も纏まらないが、やるべき事、やりたい事はハッキリした。

たとえ全てに手が届かなくても、手の届く範囲は守って見せる。

 もう多くは望まない。彼女さえいれば、それで良い。


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